魚類初期胚に一過的に出現するクッペル胞(KV)は、少数の上皮細胞とそれらに囲まれた空胞からなる単純な器官である。KVはからだの左右の向きを決定する左右軸オーガナイザーとして機能し、左右軸形成期後には退化する。本研究では、KVの退化の際にKVを構成する上皮細胞(KV上皮細胞)が分化転換を起こし、周囲の中胚葉組織に移入して長期間生存するという発見をもとに、KV上皮細胞の分化転換の機構を明らかにすることを目指した。最終年度は、これまで用いてきたゼブラフィッシュに加え、メダカを対象としてKV上皮細胞の標識技術の改良に取り組んだ。KVマーカーであるdand5プロモーターの下流でEGFPおよび光変換型蛍光タンパク質mEosEMを発現する遺伝子組換メダカ系統を作製した。この系統の胚を共焦点顕微鏡により観察し、KV上皮細胞の分化過程を追跡したところ、メダカKV上皮細胞の予定運命はゼブラフィッシュKV上皮細胞のものとは異なる可能性が示された。今後は、本研究で樹立したメダカおよびゼブラフィッシュのKV上皮細胞可視化系統を用い、両種におけるKV上皮細胞の分化転換の上流シグナルの同定を目指す。さらに、また、両系統におけるシングルセル解析を進め、KV上皮細胞の分化転換機構の進化的保存性を明らかにする。
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