リボソームは、遺伝子発現の最終段階であるタンパク質合成を担う細胞小器官であり、ヒトでは4種のリボソームRNA(rRNA)と80種のリボソームタンパク質(RP; ribosomal protein)で構成されています。80種のRPの量的な不均一性からなるリボソームの機能特異性は発見当初から提唱されていたものの長らくその真偽は不明でした。 近年の質量分析法の改良により、細胞種特異的なリボソームの機能差やそれを生み出すいくつかの要因が報告されています。しかし、リボソームの主要な構成要素であるRPの量的な差については主に酵母やマウスで確認されているものの、ヒト細胞での報告は限られています。そこで本研究では、当研究室で改良された新たな質量分析法を用いることで網羅的かつ定量的にヒト細胞種特異的なRPの同定とその機能解明を行いました。 細胞種特異的なRP同定のために7種のヒト体細胞を用意し、質量分析用のサンプル調製を行いました。これらを用いて網羅的なプロテオーム解析を行い、細胞種間で異なる量比を示すRPを同定していきます。これら7種の体細胞とは別に、ヒト人工多能性幹細胞(hiPSC; human induced pluripotent stem cell)から骨格筋を分化誘導し、複数のタイムポイントでのmRNA、及びタンパク質試料を回収しました。次世代シークエンサー、質量分析といった機器を用いたトランスクリプトーム、プロテオーム両面からの網羅的解析を行いました。 これらの解析を用いて、細胞種得意的、または分化誘導で変化するRPの同定を行います。これらの成果は、リボソームの機能不全を原因とするリボソー ム病に対する新たな病態解明の手がかりとなるだけでなく、リボソームの機能差による遺伝子発現制御という分子生物学における新たな分野を開くことが期待されます。
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