研究課題/領域番号 |
22K20628
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
小野 紘貴 京都大学, iPS細胞研究所, 特定研究員 (50966075)
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研究期間 (年度) |
2022-08-31 – 2024-03-31
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キーワード | 造血幹細胞 / 老化 / miRNA / 翻訳制御 / 合成生物学 |
研究実績の概要 |
造血幹細胞 (HSC) は、自己複製能と多分化能をあわせ持ち、あらゆる血液細胞を作り出すことのできる幹細胞である。個体の老化にともなってHSCの性質は変化することが知られており、例えば、老齢個体においてHSCの数が増加する一方で、HSCの造血機能は低下する。 microRNA (miRNA) とは、遺伝子発現の転写後制御を担う短い非翻訳RNAであり、HSCにおいて自己複製や細胞死、分化などを制御している。しかしながら、HSCの老化に関与するmiRNAの機能については未解明な点が多い。そこで本研究では、HSCの老化に関連するmiRNAを同定し、その機能を明らかにすることを目的とした。 個体の老化に伴って変化するmiRNAを同定するために、若齢マウス (8~12週齢) および老齢マウス (18ヶ月齢以上) のマウスからHSCを採取し、次世代シーケンサーを用いたmiRNAの網羅的な発現解析を実施した。その結果、若齢HSCと比較して、老齢HSCにおいて発現が上昇している、あるいは低下しているmiRNAが複数見つかった。今後の研究では、若齢HSCと老齢HSC間で発現量に差が見られたmiRNAに着目し機能の解析を行う。 われわれのグループはこれまでにmiRNAの活性にもとづいて細胞種を識別するレポーター「miRNAスイッチ」を開発してきた。miRNAスイッチを用いることで、例えばmiRNA陽性細胞と陰性細胞のように、miRNAを指標としたHSCの亜分画を定義することができるのではないかと考えた。そこで、今後の研究では、老齢HSCで発現が変化していたmiRNAに応答するmiRNAスイッチを作製し、若齢および老齢HSCにmiRNAスイッチを導入することで、若齢・老齢HSC間でmiRNAを指標に定義される分画に差異が見られるかどうかを調べる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
HSCの老化に伴う変化を調べるために、若齢 (8~12週齢) および老齢マウス (18ヶ月齢以上) からHSCを採取した。先行研究と同様に、老齢マウスでは骨髄中のHSC分画 (CD34-cKit+Sca1+Lineage-) の頻度と数が増加していた。続いて、Small RNA-seq法を用いてmiRNAの発現解析を行うのに十分な量のRNAを採取するために、骨髄から採取したHSCを生体外で培養した。培養後にフローサイトメーターを用いて細胞表面マーカーの発現量を解析したところ、若齢HSCに比べ老齢HSCはCD48陰性細胞、CD150陽性細胞の割合が高かった。一方でcKit+Sca1+Lineage-分画 (KSL) やCD201陽性細胞の割合には若齢、老齢HSC間で顕著な差異は見られなかった。生体外で培養した若齢および老齢HSCの機能を比較するために、FACSでソートしたCD201+KSL分画またはソートしていないバルク細胞を、競合細胞とともに、致死量の放射線を照射した宿主マウスに移植する競合的移植アッセイを実施した。移植後4週間ごとに末梢血を採取しドナーキメリズムを定量したところ、老齢HSCを移植した宿主のドナーキメリズムは、若齢HSCを移植した宿主のドナーキメリズムに比べて低かった。この結果から生体外で培養した若齢HSCに比べ、老齢HSCの骨髄再構築能力は低下していることが明らかになった。 続いて、HSCの老化に伴って変化するmiRNAを同定するために、若齢および老齢マウスからHSCを採取し、生体外で培養した後、Small RNA-seq法によりmiRNAの網羅的な発現解析を実施した。その結果、若齢HSCと比べて、老齢HSCにおいて発現が上昇している、あるいは低下しているmiRNAが複数見つかった。 以上のことから、本研究は当初の計画通りおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究では、若齢HSCと老齢HSC間で発現量に差が見られたmiRNAに着目し、miRNAを指標とした老齢HSCの不均質性の可視化を試みる。まずは、これらの候補miRNAに応答し、レポーターである蛍光タンパク質の翻訳を制御可能なmiRNAスイッチを作製する。次に、miRNAスイッチを若齢および老齢HSCに導入し、フローサイトメトリーにより蛍光タンパク質の発現量 (miRNAの活性を反映) を測定する。そして、若齢・老齢HSC間でmiRNA陽性・陰性分画の有無や割合に顕著な差異が認められたmiRNAをさらに選抜する予定である。最終的に、若齢・老齢HSCそれぞれにおけるmiRNA陰性および陽性細胞を、FACSを用いてソーティングし、致死量の放射線を照射した宿主マウスへ移植することで、それぞれの分画の機能を比較する。加えて、老齢HSCにおけるmiRNAの機能を調べるために、老齢HSCで発現が変動していたmiRNAを、レンチウイルスベクターを用いて過剰発現あるいはノックダウンする。そして、細胞表面マーカーの発現パターンの解析や細胞周期解析、競合的移植による骨髄再構築能力の評価などの解析を実施することで、老齢HSCにおけるmiRNAの機能の解明を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
細胞の培養に使用する試薬の購入費に充てる予定であったが、度重なる供給遅延のため購入の見通しが立たなかったため。 研究の進展のため、次年度の消耗品の購入費に充てる予定である。
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