研究課題/領域番号 |
22K20631
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
磯部 真也 大阪大学, 大学院理学研究科, 助教 (50897147)
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研究期間 (年度) |
2022-08-31 – 2024-03-31
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キーワード | DNA損傷修復 / クロマチン高次構造 |
研究実績の概要 |
ヘテロクロマチンでは、その凝縮した構造からDNA上でおこるイベントに関与する因子はそのままの状態ではDNAにアクセスできず、クロマチン構造の再編がイベント毎に行われている。これまでに、ヘテロクロマチン因子HP1の新規結合タンパク質として見出したAHDC1は、ヘテロクロマチンの高次構造変換活性を有すること、液-液相分離による自己集合活性を有すること、結合因子としてDNA損傷修復に関わるSCAIや、修復時に働くクロマチンリモデリング複合体のコンポーネントであるARID1Aと結合することを明らかにしており、AHDC1はヘテロクロマチンとDNA損傷修復を結ぶのに重要な因子であると考えた。 本年度の研究により、AHDC1と結合しているARID1Aの結合タンパク質を網羅的に同定し、AHDC1、ARID1Aの双方向の共沈を確認することができた。その上で、AHDC1結合タンパク質のHP1、SCAI、ARID1Aについて、AHDC1上の結合部位を実験的に決定しようとし、AHDC1にはHP1結合部位が2箇所、SCAI結合部位は1箇所あることが明らかとなった。また、ARID1Aの結合に必要なAHDC1の領域も絞りこめている。加えて、マウス細胞のNIH3T3を用いて、AHDC1ノックアウト細胞を樹立し、表現型解析を行なった。AHDC1ノックアウト細胞は、自然発生的なgamma-H2AXの輝点が減少し、また、損傷誘発時の細胞周期遅延が見られなくなることから、AHDC1はDNA損傷の感知や損傷チェックポイントの活性化に関わることが示唆された。加えて、マウスNIH3T3のAHDC1ノックアウト細胞は、RNA FISH法によりサブセントロメア領域のmajor satellite non-cording RNAの量が増加する知見も得ており、ヘテロクロマチンの制御に関与する手がかりを得ている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画として、AHDC1結合因子として同定されたARID1Aのプロテオミクス解析を行い、AHDC1-ARID1Aの相互作用を確立でき、また、同じくAHDC1結合タンパク質であるHP1、SCAIとAHDC1の結合部位を同定することができた。AHDC1ノックアウト細胞も、はじめはプロトコル確立に時間を要したが、マウス培養細胞NIH3T3やヒト培養細胞HCT116やhTERT-RPE1で樹立でき、ゲノム編集技術の最適化を進めることができたため。また、作製したマウスNIH3T3でのAHDC1ノックアウト細胞を用いて表現型探索を行い、AHDC1がDNA損傷応答に関与していることが示唆されたため。総括すると、AHDC1の機能性領域の同定の目処ができ、今後はそれらと結合できない変異体を発現する細胞を樹立し、AHDC1とHP1、SCAI、ARID1Aの結合が損傷応答のどのステップで、どのように働きかけているかを解析していく見通しが立ったため。 また、当初の予定では損傷応答時のクロマチンリモデリングについての解析を行うことで、AHDC1とクロマチン高次構造についての関係性を探ることを考えていたが、マウスNIH3T3でのAHDC1ノックアウト細胞は、サブセントロメア領域のmajor satellite non-cording RNAの増加が見られることから、AHDC1はヘテロクロマチン領域の転写制御、もしくはクロマチンへのRNAの取り込みなどに関与している可能性が示唆された。そのため、AHDC1とRNAとの関係に焦点を絞った解析を行い、AHDC1のクロマチン高次構造への関与ついて深く掘り下げていくことを考えている。
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今後の研究の推進方策 |
まず、AHDC1上のARID1A結合部位を同定する。その後にHP1やSCAI、ARID1Aと結合できない変異体をそれぞれ作製し、野生型のAHDC1と置換した細胞株をゲノム編集技術などを用いて作製する。DNA損傷応答への関与を調べる手段として、gammma-H2AX以外の修復応答因子のDNA損傷部位へ集積や、損傷誘発後の細胞周期の変化、損傷誘発後に増減するタンパク質翻訳後修飾の経時的変化、損傷修復経路のGFPレポーター細胞を使ったアッセイによって、AHDC1ノックアウトや結合変異体によってどのような変化が生じているかを解析し、AHDC1やその結合因子が、損傷応答のどのステップで働き、どのような影響を与えているかを解析する。また、マウスNIH3T3でのRNA FISH解析で、AHDC1ノックアウトによりサブセントロメア領域のmajor satellite non-cording RNAの増加が見られたことから、qPCRによって定量的にRNAの増加を評価する。また、転写阻害剤を加えたサンプルや、クロマチン画分を分離したサンプルを調整しRNA量をqPCRで評価することで、AHDC1ノックアウトによって増加したRNAが、転写の増大によるものか、クロマチンに取り込まれるRNAが増大しているかを解析する。このmajor satellite non-cording RNAの増加も、野生型のAHDC1と置換した細胞株を用いて解析し、AHDC1のどのドメインが活性に必要かを探索する。
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次年度使用額が生じた理由 |
消耗品購入のために予算を組んでいたが、大学の若手支援として100万円の助成金を獲得でき、その予算は年度内消化が必須であったため、本科研費で購入予定の消耗品購入分とし、大部分を次年度に繰り越すこととなった。それを踏まえ、下記の210万円の使用計画を今年度の予算としている。 【消耗品費】「試薬・酵素」 70万円: 遺伝子クローニング、シーケンシングにかかる費用 (1,000円x 200解析 =20万円) 、化学試薬、分子生物学・細胞生物学試薬、抗体として30万円、エレクトロポレーション試薬として20万円を見込んだ。「核酸合成」20万: 合成オリゴ; (50円 x 4000塩基 =20万円)、「細胞培養試薬」 40万 : 培地と血清の費用として約40L分を算出し た。「プラスチック機器」 50万 : 培養皿として (約200円x 1500枚 =30万円) と、ピペット、遠心管等 (約50円 x 2000 本 =10万円)、その他 (チップ、1.5 mLチューブなど)として10万円を算出した。【書籍・ソフトウェア購入費】書籍購入やAdobeなどのサブスクリプトとして10万円を算出した。【国内旅費】 : 国内学会に参加3回分の参加費用、旅費を想定して20万円を算出した。
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