脂質二重層は内層と外層で異なる脂質組成をもつ。さらに、上皮細胞においては上皮細胞極性と呼ばれる、密着結合構造を境にして頂端側と基底側の形質膜では異なるタンパク質や脂質が偏在していることが知られる。つまり、上皮細胞の形質膜においては、(1)脂質二重層の内層と外層、(2)頂端側と基底側という2軸性の性質をもっている。 これまでに生化学的手法を用いた解析によって、スフィンゴ脂質や特定のタンパク質を豊富に含む輸送小胞が頂端膜へ選択的に輸送されることが示されている。このことから、Golgi体で頂端側の成分を豊富に含む小胞が形成され、頂端側の形質膜へ選択的に小胞輸送された結果、上皮細胞極性を形成していると解釈されている。 しかしながら、Golgi体から形質膜への輸送小胞における、脂質の網羅的な解析や局在はなされていない。そこで、上皮細胞極性形成と維持において、特定の脂質クラスの寄与で説明可能な現象であるか検討、及び、生化学的手法と網羅的解析を組み合わせ新規に関与する脂質分子の同定、代謝酵素や局在を制御する遺伝子への介入を進める。 本研究課題では上皮細胞をモデルとし、非対称な形質膜成分の分布がどのように確立されているのか、またその破綻がどのような現象や関連疾患の引き金となるか、細胞内選別輸送と上皮細胞極性形成の分子基盤解明に取り組んだ。
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