骨格筋を構成する筋線維は、組織幹細胞である筋衛星細胞から派生した筋芽細胞が分化し互いに融合し合う(筋管形成)ことで形作られる。この過程では、主要なエネルギー産生器官であるミトコンドリアの形態・活性さらには細胞内エネルギー代謝状態がダイナミックに変動するが、それらと細胞分化とを繋ぐ分子メカニズムの全容は不明である。一方、これまでに本研究者は、個々の細胞がミトコンドリア熱産生の制御により温度を自律的に制御することを見出した。そこで、本研究では温度があらゆる生化学反応に作用する因子であることから着想を得て「筋芽細胞における代謝変動は、細胞内温度変動を介して分化関連シグナル伝達に作用する」との仮説を立て、その実証を目指している。 今回、細胞運命決定ならびにエネルギー代謝における重要性が報告されているミトコンドリア局在タンパク質MTCH2が筋芽細胞分化に如何なる役割を果たすか、筋芽細胞株C2C12およびマウス骨格筋より単離した筋衛星細胞をモデルとして調査した。まず、低血清培地下での分化誘導時にMtch2遺伝子の発現をRNA干渉法により抑制したところ、筋管形成が顕著に抑制されることを見出した。また、種々の解析からMTCH2がミトコンドリアの酸化的リン酸化を正に制御することが明らかとなった。即ち、筋芽細胞の分化におけるエネルギー代謝制御にMTCH2が強く寄与することが示された。また、これらはin vitro/ex vivo両方の解析から示されたものであり、MTCH2が筋再生といった個体レベルにおける筋線維形成に関与することも強く示唆された。これら一連の知見をまとめ、現在論文投稿を進めている。 他方で、前年度までに構築した細胞内温度計測法により、筋芽細胞の分化誘導時における細胞内温度変動の検証も進めた。今後はMTCH2を起点に細胞内温度変動と筋芽細胞分化との関連に迫る。
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