ユビキチン鎖に関する解析については、OTUD4欠損細胞の樹立と各種OTUD4変異体の作製が完了し具体的な解析の準備が整った。樹立した薬剤誘導性MITOLノックダウン細胞を用いた解析では、まず既報基質の過剰発現系にて検討した。しかし、ノックダウン処理前から基質に対するユビキチン化修飾が少なく、薬剤3時間処理によりMITOLを消失させても変化がみられなかった。これは、ウエスタンブロットおよびゲノムシークエンスにより、ユビキチン化活性のあるMITOLの発現量が半減していることに起因していると考えられる。2023年度は目的の細胞の再作製を行った。 MITOLの新規基質HMOX2の解析については十分に目標を達成する成果が得られた。ミトコンドリアの電子伝達系において鉄は必須金属であるにも関わらず、ミトコンドリアへの鉄供給メカニズムは不明な点が多い。キレート剤処理あるいは鉄輸送体のノックダウンによりミトコンドリア内の鉄を欠乏させると、MITOLによるHMOX2へのユビキチン化が亢進することが明らかになった。予定していたレポーターアッセイを実施したところ、ユビキチン化されないHMOX2-KR変異体では酵素活性が低下していることを示す結果が得られた。また、外部の専門家に依頼してミトコンドリア内の鉄量を測定すると、野生型に比べHMOX2欠損細胞では鉄量が減少し、HMOX2-KR変異体を再発現させても回復しなかった。ミトコンドリア呼吸能については予想通り、欠損細胞で低下し、野生型の再発現では回復する一方で、HMOX2-KR変異体では回復しなかった。以上の結果から、MITOLはHMOX2をユビキチン化することでその酵素活性を上昇させ、ミトコンドリアへの鉄供給を促進し呼吸能維持に寄与していることが示唆された。一連の成果をまとめた論文はまもなく投稿予定である。
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