研究課題/領域番号 |
22K20656
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研究機関 | 拓殖大学 |
研究代表者 |
前田 将輝 拓殖大学, 工学部, 准教授 (80795774)
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研究期間 (年度) |
2022-08-31 – 2024-03-31
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キーワード | 動物飛行 / 空気力学 / 羽根 / 羽毛 / 羽枝 / 小羽枝 / 微細構造 / 翅 |
研究実績の概要 |
大きく実験と数値計算に分けて記述する。まず実験については、鳥の風切羽をデジタル光学顕微鏡により観察し、羽根中央の太い羽軸・羽軸から両側面へ分岐する羽枝・および羽枝からさらに分岐する小羽枝という微細構造を確認した。また研究協力者の中臺博士から送付いただいたホソガの翅の観察も行った。次に本助成金により購入した3Dスキャナ (Revopoint POP 2) により風切羽の3Dスキャンを試みた。その結果、平面形と羽軸・羽弁(羽枝と小羽枝で構成される平板状部位)といった大まかな3次元形状は概ねよく取得できたものの、羽軸や羽弁の表面にはノイズ由来と思われる不自然な凹凸が見られた。一方で、羽弁を構成する羽枝と小羽枝(羽枝よりも高さが小さい)による微細な凹凸は確認できなかった。これらは解像度の不足によるものと考えられる。次に数値計算については、研究環境の整備・CADによる羽根モデルの作成・および流れ場の予備的計算を達成した。具体的には、まず羽軸に膜状の羽弁を加えたシンプルな羽根モデル(羽弁モデル)を作成した。次に羽軸から左右に櫛状の毛(羽枝)が分岐する羽根モデル(羽枝モデル)を作成した。この2モデルのそれぞれについて、オープンソースの流れ解析ソフト OpenFOAM を用いて定常シミュレーションを実行した。テスト計算であるため敢えて小さな流速の1 m/sかつ乱流モデルは不使用とし、迎え角は-5度から25度まで5度刻みとした。羽枝モデルは羽弁モデルに比べて揚力は小さく、一方で抗力はやや大きく、結果として空気力学的性能の指標である揚抗比(揚力を抗力で割った値)は羽弁モデルの方が羽枝モデルよりも最大で10倍ほど大きい結果となった。羽枝モデルでは羽枝間に小羽枝がなく比較的大きな隙間があるため、ここから気流が漏れることが原因であると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
当初の予定よりも進捗は遅れている。研究代表者は2022年度が大学教員として勤務する初めての年度であり、様々な大学業務に不慣れであった。さらに、助成金の支給が開始される後期(9月以降)に本年度の授業がほぼ全て集中していた。こうした要因により、まとまった研究時間の確保そのものが困難であったことが研究の停滞を招いた主な原因である。腰を据えて研究ができたのは卒業研究と入試業務が落ち着いた2月以降であったが、実際に、この期間には数値計算を大幅に進展させることができた。羽根サンプルの手配や観察、3Dプリントによる模型の作成はいずれも時間が確保できず行えていない(3Dプリンタによるテストプリントは何度か行っているが羽根・翅モデルのプリントには着手していない)。また、大学が保有する電子顕微鏡による羽毛微細構造の観察は試みようとしたものの、冷却系統の不具合により電子顕微鏡自体が使用できず断念した。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度は、勤務2年目であり業務にある程度慣れていること・授業を前期後期に適度に分散させたこと・研究を一緒に進めてくれる学生が増えたこと(特に修士)から、2022年度よりも多くの研究時間を確保できる見込みである。また、電子顕微鏡の冷却系統はすでに修理済みであり、鳥の羽根および昆虫の翅の微細構造の観察を予定している。3Dスキャナの解像度不足に対してはより高解像度の3Dスキャナ (Revopoint mini) を購入して対処する。一方、現実的な路線変更として、生物サンプルの確保は本研究計画の範囲においては一定の分類群に留め、かわりに数値シミュレーションと風洞実験に力を集中したい。後者については3Dプリントした膜翼・毛状翼それぞれについて風洞での空気力計測を行い、これに追加して煙による流れの可視化を行いたい。このために高速度カメラを1台購入する予定である。しかしこれは、幅広い分類群にわたる形態の効果を見るという生物学的な観点での研究を諦めたということでは決してなく、飽くまで優先順位を変更したに過ぎない。さらには仮に本助成金による研究期間内に十分に広い分類群にわたるサンプルを集められなかったとしても、当然にその後もサンプル収集およびモデリングの努力は続け、より一般的な(ないしは多様な)形態と空気力学に関する法則性を見出していきたいと考えている。一方、数値計算についてはある程度の準備は整ったことから、今後は羽枝モデルにおいて羽枝の間隔を変更するまたは小羽枝を追加する・羽根の平面形を変更する・風速を変更する、といった基本的なパラメタの探索を行っていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初は風洞実験用のアルミフレーム等を購入する予定であったが、大学に2つある風洞のメンテナンス状況が不透明でありどちらに合わせるべきかの迷いがあったこと、およびアルミフレーム構成の検討に時間を要したことから2022年度内に購入を行わないこととした。今後の使用計画としては、予定を変更して、高解像度3Dスキャナおよび高速度カメラの購入に充てる予定である。
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