本研究の目的は、蛍光タンパク質センサーを用いたライブイメージングで、細胞間隙に存在する分子の動態解析を達成することである。本年度は、細胞外分子の可視化技術基盤の確立と、マウス脳スライス標本での解析を目指し、研究計画に従って以下の三項目を遂行した。
1)昨年に引き続き、遺伝子導入して蛍光タンパク質センサーを細胞膜外葉上に提示させる手法を検討した。それぞれのセンサーのC末端に、血小板由来増殖因子受容体の膜貫通ドメイン配列またはGPIアンカー配列を付加した。これらの遺伝子をHEK293細胞に導入したところ、GFPおよび一部のセンサーでは細胞膜上での発現が確認できた一方、細胞内で凝集体を形成するなど、細胞膜上での蛍光が確認できないセンサーがあった。蛍光タンパク質センサーの大きさが膜上で発現させる際の問題となる可能性が示唆された。 2)上記の試行と並行して、遺伝子導入を行わず、細胞外から添加して蛍光タンパク質センサーを細胞膜外葉上に提示させる手法を検討した。この手法には、脂質とポリエチレングリコールから成り、末端にNHSをもつ誘導体を用いた。この誘導体と、大腸菌を用いて合成・精製したセンサータンパク質を反応させ、N末端が修飾されたセンサータンパク質を得た。この脂質修飾センサーを細胞外から添加し、洗浄後に観察したところ、細胞外での蛍光を確認した。このことから、化学修飾により蛍光タンパク質センサーを細胞膜上に提示できることが明らかになった。 3)2)で作成した脂質修飾センサーを用い、マウス海馬スライスでの観察を試みた。海馬スライスに脂質修飾あり/なしのセンサータンパク質をそれぞれ添加した。洗浄後に顕微鏡下で観察したところ、脂質修飾した蛍光タンパク質センサーのみで細胞外での蛍光を観察した。この海馬スライス標本を用い、拡延性抑制にともなう細胞間隙の分子濃度の時間・空間変化を観察する予定である。
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