ATP産生に必須な電子運搬担体かつ抗酸化物質であるユビキノン(UQ)は、心不全組織で存在量が減少する。そこでUQ量の制御機構を理解できれば心不全治療に応用できる可能性がある。我々はCoq10aタンパク質に注目した。酵母の研究で、このタンパク質はUQと直接的に相互作用する可能性が示唆されるが、哺乳類での機能は不明である。そこでCoq10aの機能を理解するため、我々はCRISPR-Cas9システムを用いて、Coq10aノックアウトおよび心臓特異的ノックアウトマウスを作製し、解析を行った。すると心臓のUQ量が優位に増加していた。更に、Coq10a欠損マウスの心臓サイズは15%ほど増大しており、心室収縮機能も増進していた。つまり、Coq10aを欠損心臓は、優位な生理的特徴を獲得した可能性がある。では、Coq10aの機能は何か?詳細な解析の結果、増加したUQはミトコンドリア外の細胞質層にて顕著に増加していた。Coq10aはミトコンドリアに局在するため、Coq10aが不在の状態ではUQがミトコンドリア外に拡散すると推測できる。ではUQ存在量増加の原因は何か?Coq10a欠損心臓組織における網羅的な遺伝子解析結果によると、異所的なPPAR経路の活性化が確認できた。PPAR活性化の原因を探ったところ、UQが直接的にPPARタンパク質と結合・活性化する可能性を見出した。つまり、UQはPPARタンパク質のリガンドとして機能する新たな仮説を示した。過去の文献から、PPAR経路の活性化は、UQ量増加に寄与することが示されている。これらの結果は、UQシャペロンであるCoq10aの欠損が、PPAR経路を異所的に活性化させる新たなUQ量制御機構の存在を明らかにした。
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