昆虫の40-60%の種に感染する細胞内共生細菌ボルバキアは、宿主の生殖を操作することで知られている。その一方で、生殖操作以外の宿主へ及ぼす影響や、そのメカニズムについては不明な点が多い。チョウ目ヤガ科の昆虫であるイラクサギンウワバ(以下、イラクサ)には2系統のボルバキアwNi1とwNi2が感染しているが、抗生物質処理によるwNi1の除去により、生存率が大幅に減少する現象を確認した。そこで本研究では、イラクサに感染するボルバキアが宿主の脱皮や変態に影響を及ぼしていると仮定し、ボルバキア除去による死亡のメカニズムを明らかにすることを目的とした。 最初に、福井県で採集したイラクサのボルバキアの感染系統診断を行った。その結果、福井県産イラクサも関東のイラクサと同様にwNi1に感染していることを確認した。次に、テトラサイクリン入りのエサを与えボルバキア除去処理を行った系統と無処理の系統を用意した。それぞれの処理の終齢幼虫から血リンパを採集し、ELISA法によってエクダイソンの定量を行った結果、テトラサイクリン処理の有無によるエクダイソン量の変化は認められなかった。そこで死亡メカニズムの解明のために、イラクサの全身切片を作成し体内でのボルバキアの局在の調査を行った。現在、wNi1の局在の解析と組織像の比較を進めている。今後は本研究で得られた結果から、ボルバキア除去によるイラクサの死亡メカニズムについて調査を進めてゆく。
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