自然状態で生じる異種間交雑は、生物進化の上で多くの分類群の迅速な種分化や適応放散の原動力となってきたことが明らかになりつつある一方、人為的影響に伴う在来種と外来種の間で生じる異種間交雑は、保全生物学上の主要課題のひとつとなっている。本研究では、野外調査とゲノムワイド分析を組み合わせることで、不均一な自然環境の中で、どのような遺伝子が在来、外来、交雑個体の分布や存続に寄与してきたのかを網羅的に捉えようと計画している。具体的には、交雑個体の生態情報に富む北海道空知川の外来カワマスと在来イワナの交雑をモデルに、中立遺伝マーカーを用いて在来種と外来種および交雑個体の空間分布と頻度を明らかにし、適応関連候補遺伝子を探索することで、「在来、外来および交雑個体の分布と存続に寄与する生態・遺伝基盤の解明」を目指した。 当初は当初はMIG-seq法によるゲノムワイドSNP分析を計画していたが、RNA解析の分析により多くの予算を割いたことから、研究代表者が所有する中立遺伝マーカー(マイクロサテライトDNA)のデータの活用に切り替えた。最終年度である令和3年度は、前年度に夏季の最高水温が高い河川と低い河川から集めたカワマスとイワナ、交雑個体の遺伝標本(脳、筋肉、肝臓)を用いて、RNA-seq法による遺伝解析を主体に作業を進めた。得られたシーケンス・データは、標本間の発現量の差から発現変動遺伝子を抽出した後、GO解析を実施した。解析の結果、夏季の高水温耐性にかかわる候補遺伝子がいくつか見つかり、今後、これまで集めてきたデータを用いて生態基盤を解明する準備が整った。引き続き、学会における発表ならびに国際誌への公表準備を進めている。
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