動物の性決定は、生殖巣を卵巣と精巣のいずれかにするかという一次性決定と、それ以外の器官の性を決定する二次性決定という二つに大別される。本課題では、昆虫類においてこれら 2 つの性決定メカニズムにどのような違いがあるのかを機能ゲノミクスの観点から解析した。具体的には、昆虫進化史の早い段階に分岐したシミ目に属すマダラシミ Thermobia domestica を対象とし、その性決定遺伝子のゲノム編集系統の作製を行なった。その結果、ノックアウトホモのメスにおいて卵巣が形成不全になるにもかかわらず、その他の器官は正常であることが明らかとなった。このノックアウトにより、生殖巣とその他の器官の性差が如何に影響を受けているのかをトランスクリプトーム解析によって検討した。さらに、マダラシミの性決定メカニズムを明らかにするため、トランスクリプトーム解析を通常の雌雄で行ない、メスで高発現していた 43 遺伝子を幼虫期 RNA 干渉法にて解析した。この結果、13 遺伝子が性決定に関与する可能性があることが明らかとなった。これらの結果により、一次性決定と二次性決定が共通の分子基盤をもつとされてきた他の昆虫類の性決定とは、マダラシミの性決定メカニズムが一線を画すことが示唆された。さらに、本課題により、昆虫類における性決定メカニズムの進化研究の要たるマダラシミにおいて一次性決定と二次性決定のメカニズムレベルでの差異を解析するために必須な基盤を整備することができた。
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