本研究では、日本の渡り鳥をモデルに、渡り経路が種間で多様に進化した背景に、現在の環境への適応だけでなく、種ごとの進化の歴史の影響(歴史的偶然性)の影響が重要だったことを解明することである。当該年度では、①最先端の遺伝子解析である集団ゲノミクス手法を実施し、日本の渡り鳥の大陸での歴史を復元すること、②渡り経路の進化が、環境適応のみか、それとも復元された大陸の歴史による制約も込みで説明できるかどうかの検証を目的とした。
①については、前年度立ち上げた実験環境を用いて、ノビタキ12個体、キビタキ12個体の全ゲノムリシーケンスのためのライブラリ調整を実施し、350ギガ塩基対におよぶデータの取得に成功した。また、アカモズおよびシマクイナの次世代シーケンサーデータを遺伝解析し、集団動態を復元した。その結果、種間で異なる歴史を通じた日本集団の形成史が復元できた。具体的には、アカモズは中国から日本への移住後、日本から朝鮮半島への遺伝子流動の可能性が検出され、シマクイナでは極東ロシアからの移住と日本から大陸への遺伝子流動が復元できた。 ②については、アカモズとノビタキにおいて、復元した大陸での歴史を考慮した種分布モデルによって大陸上の過去の分布域を推定し、この地域が渡り経路を説明するかどうかをシミュレーションによって検証した。その結果、環境適応だけでなく過去の分布域の強い影響を検出した。
これらの研究結果は、渡り経路の種間の違いが適応進化によって駆動されてきたというこれまでの仮説に異議を唱えるものであり、新しい発見につながった。さらに、①で得られたデータ量は膨大であり、現在解析中であるが、②で発見したような複雑な遺伝子流動の歴史が想定される。今後の渡り経路の進化のモデル化では、このような遺伝子流動の影響を考慮することが重要だと考えられた。
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