研究課題
アルツハイマー病(AD)の発症機序の解明は臨床的に有効な治療薬同定に必須であり、社会的に要請の高い課題である。過去の研究では、家族性ADを引き起こす遺伝子変異を発現したマウスモデルが200種類以上作出され、ADの三大病理の一つであるAβ病理の再現は成功し、疾患修飾薬の開発などに貢献した。しかし、三大病理の残りの二つであるタウ病理と神経細胞死の再現はできておらず、ADの発症前(前臨床状態)を反映する動物モデルと一般的に認識されている。すなわち、AD患者が神経内科医を受診する発症期の脳病態を反映する動物モデルは依然として存在せず、この動物モデルの不完全性はAD病態機序の解明やAD発症後にも有効な創薬開発の大きな障壁となっている。本研究計画では、高齢のAD患者がしばしば併発する加齢性疾患に着目し、慢性腎臓病(CKD)をADモデルマウスに併発させた後にタウ病理は発症するか解析を行なっている。2022年度は、AD患者同様のAβ病理を呈し、タウをヒト化した妥当性の高いADモデルマウス(AppNL-G-F; MAPT knock-inマウス)を用い、12-13ヶ月齢時(中年時)にCKDを惹起した。結果として、中程度のCKD病理を反映する腎臓の線維化や尿毒症性毒素の血中での蓄積が確認されたため、CKDの惹起は確かに成功した。脳内のタウ病理やAβ病理への影響も免疫組織学的・生化学的に評価を行ったが、中年ではCKDがAD病理の増悪因子になる可能性は低い結果を得た。他の研究者による非常に最近の研究では、17ヶ月齢の野生型マウスにCKDを惹起すると神経炎症や脳血管障害が観察されるという報告がなされたため、今後はより高齢のADモデルマウスにCKDを惹起し、同様の解析を行う。本研究計画はAD後期病態を反映するモデル開発と脳―腎臓連関という新しい視点を提示する萌芽的研究であり、今後の解析が期待される。
2: おおむね順調に進展している
長期的に尿毒症性毒素が血中で蓄積するCKDモデルを作出し、腎臓病理の評価系の確立に成功したため。2022年度は尿の解析のための代謝ケージの導入や、腎臓病理を免疫組織学的・生化学的に評価する実験系を完成させた。さらに、中年のADモデルマウスでCKDを惹起後、脳内のAD病理への影響を当初の計画通り実施できた。より重症度の高いCKDモデルの作出も試みたが、ADモデルでは致死率が非常に高く、計画の見直しを迫られたが、本実験計画を遂行するための実験系の最適化は確実に進んだ。
今後は、ADモデルマウスを当初の計画よりも高齢化させ、2022年度に確立した手法で重症度が中度なCKDを惹起する。その後、タウ病理や神経炎症の増悪、脳血管障害について免疫組織学的・生化学的手法を用いて解析を実施する。同時に、高齢の野生型マウスに我々のCKD惹起方法を応用し、AD関連病態(神経炎症や脳血管障害など)について同様の手法を用いて評価する。
2023年1月から始めたADモデルマウスへ重度なCKDモデルの作出を試みたが、当初の予備検討よりも非常に高い致死率をこの群は見せ、解析を行うことができなかった。このため、より生存率が高い、中度なCKD病理を呈するCKDモデルに変更した。現在は研究計画よりも高齢のADモデルマウスに中度なCKDを惹起する実験系へと実験計画を見直したため、マウスを加齢させる時間を要し、研究に遅延が生じたため。
すべて 2023 2022
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (4件) (うち招待講演 1件)
Clinical and Experimental Neuroimmunology
巻: - ページ: -
10.1111/cen3.12745