研究課題/領域番号 |
22K20693
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研究機関 | 順天堂大学 |
研究代表者 |
木島 千景 順天堂大学, 医学部, 准教授 (40710611)
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研究期間 (年度) |
2022-08-31 – 2025-03-31
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キーワード | 脳梗塞 / 軸索再生 / miRNA / グリア瘢痕 / アストロサイト |
研究実績の概要 |
本邦における脳卒中の患者数は約112万人に達し、要介護となる原因疾患の第2位を占める。脳梗塞急性期では再灌流療法が普及したが、依然多くの患者が後遺症に苦慮している。我々は、脳梗塞後に形成されるグリア瘢痕が、軸索再生の調整に関与することに着目した。グリア瘢痕を構成するアストロサイトと、脳梗塞後早期に活性化し炎症に関わるマイクログリアとの相互作用の観点から研究を行ってきた。既に先行研究で明らかにしたマイクログリアによる神経保護型アストロサイトの誘導、軸索再生及び慢性期の機能回復といった知見を基に、本課題では、マイクログリアが神経保護的なアストロサイトを誘導する機序について、セクレトームの側面から具体的な分子病態機構の解明を目指している。アストロサイトの活性化に関わるP2Y1受容体(Gタンパク共役型ATP受容体)の阻害薬、および虚血マイクログリア培養液を投与した虚血アストロサイトから得られた細胞外小胞(EVs)に含まれるmicroRNA-146a-5pがNFκBシグナル伝達を抑制し、炎症性サイトカインTNFαを抑制することで慢性期の機能回復が得られる事を明らかにした。さらにそれらのEVsにおいてCD9、CD63、CD81といった表面抗原の有意な発現増加を認めた。アストロサイトの性質の評価に関し、神経傷害型または保護型について単一の分子のみならず、より網羅的に検討するためmRNA発現の再解析を行った。P2Y1受容体阻害薬および虚血マイクログリア培養液を投与した虚血アストロサイトにおいては、複数の傷害型マーカーの低下と保護型マーカーの上昇を認めた。今後はEVsの組織修復、機能予後改善効果についてより詳細な分子病態機構の解明を進めるべく、脳梗塞モデルラットの組織を用いたRNAの網羅的解析などを行ってゆく計画である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの研究において、P2Y1阻害薬及び虚血後マイクログリア培地を投与したアストロサイト由来の細胞外小胞中ではmiR-146a-5pの発現が有意に増加し、CD9、CD63、CD81といった表面抗原も有意な発現増加を明らかにした。miR-146a-5p はTRAF6、IRAK1、NFκBを介しTNFαの産生抑制に寄与し、CD9、CD63、CD81などのテトラスパニンと呼ばれる膜タンパクは様々な疾患において抗炎症作用を有すると報告されている。よってそれらが軸索再生と慢性期の機能予後改善のメカニズムであると考えられた。 これらの研究成果はMolecular Neurobiology 2024 Feb;61(2):1002-1021.に掲載された。グリア細胞の機能については未だ不明な点が多くあり、最新の知見も刻々と変化している事から、アストロサイト機能の評価方法、培養手法についてもこの論文投稿におけるリバイス作業、また各学会での発表と議論により幅広い知見を得ることができた。 さらに先行研究で得られた結果をもとに細胞外小胞の組織修復や機能回復にかかわる分子病態機構について、アストロサイトに限定せず、脳梗塞周辺組織を構成する神経、オリゴデンドロサイトを含んだより網羅的な検討を行うため、次期の研究としては、はじめにmicRNAを核酸導入したEVsを作成し、脳梗塞モデルラットに投与する実験系を準備している。
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今後の研究の推進方策 |
EVsによる脳梗塞慢性期の機能回復効果の分子病態機構を明らかにすることが今後の本研究の課題である。これまでの研究において明らかにした、アストロサイト由来のEVsによる組織修復効果の評価において、我々はin vitroにおけるアストロサイトのmRNAの網羅的解析を行い、その分子の多様な変化を明らかにした。さらに、予後改善効果についてEVsに含まれるmicroRNA-146a-5pやEVsの表面抗原が関係する可能性を示した。今後の研究ではアストロサイトに限局せず、脳梗塞後の組織におけるEVsの効果についてより幅広い分子病態機構の解明を目指し以下を計画する。 <miR-146a-5p導入のAEVの作製、評価>新生仔ラット脳からアストロサイトを単離し培養する。培養アストロサイトへmiR-146a-5pを核酸導入し、アストロサイトを再度培養させAEVを回収する。 <miR-146a-5p高発現AEVによる治療効果の評価>8-9週齢のWistarラットにて中大脳動脈閉塞モデルを作製する。脳梗塞亜急性期であるMCAO7日後にラット尾静脈よりAEVs100μgを投与する。Vehicle群、通常ラット、AEVs投与群において生存率、個体の運動障害の変化を解析する。慢性期に相当する28、56日目の脳切片を用い、peri-infarct areaでの組織学的変化を評価する。蛍光標識したEVsと各細胞(神経細胞、軸索、マイクログリア、アストロサイト、オリゴデンドロサイト、血管内皮/周皮細胞等) のマーカーと共に蛍光二重染色を行う。 <scRNA-seqによる包括的解析>Vehicle群、AEVsを投与した脳梗塞ラットの28日目peri-infarct areaを採取する。採取したPeri-infarct areaの組織を単細胞レベルまで分離しシングルセル発現解析を行い、EVsの効果を包括的に解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究についての論文発表に際し、2023年度では査読者によるリバイス対応に多くの時間を要した。その追加実験のほとんどは細胞培養の実験系であったため、新たな機器や試薬の購入を行う機会が無く、予算の残額が発生した。しかし、本年度からは新たな実験助手、本研究を引き継ぐ大学院生がチームに加わり、新たに主義の獲得と最終的にはsingle cell RNA-Seqを目標に研究を推進している。
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