本研究では、先天的恐怖臭(TFO)を用いて冬眠動物であるハムスターを人工的に冬眠様低体温に誘導し、in vivo Ca2+ imagingを用いることで、冬眠動物における低体温下での神経活動の実態解明を目的としている。 23年度は、TFOの1種である2-Methyl-Thiazoline(2MT)による冬眠様低体温を、試験を重ねることでより安定的にハムスターへ誘導させることが可能となった。さらに、2MT以外のTFOを適用することにより、TFOを用いた最適な低体温誘導法を確立するアプローチを行ったが、結果として2MT以外のTFOでは安定的な低体温を誘導することができなかった。 次に、GCaMPを使用したハムスターの低体温時における生体内のCa2+ imaging手法を用いて、冬眠様低体温状態での個々の神経細胞レベルでの神経活動を解析した。さらに、マウスを用いて冬眠動物と非冬眠動物の低体温時の神経活動の比較を行った。結果として、ハムスターの個々の神経活動は低体温になるに従い、活動の頻度が低下し、カルシウムのスパイク数の減少、スパイク幅の伸長が起きるものの、10℃以下の低体温でも安定して神経の活動が行われていることが分かった。一方で、非冬眠動物のマウスの神経は、体温が20℃ほどで神経活動がほとんど停止し、15℃を下回るとカルシウムスパイクの歪みが生じ、さらに10℃を下回ると神経細胞内へのカルシウムの過剰な流入が起き、神経活動が停止することが明らかとなった。 以上から、本研究を通して、①動物を冬眠様な低体温に誘導する技術の確立、および、②冬眠動物におけるin vivo Ca2+ imaging技術の使用が可能となった。さらに、本研究から、冬眠する動物が低体温下でも神経活動を維持できる仕組みに、カルシウムの調節を安定させるメカニズムが関与していることが示唆された。
|