研究課題
本研究では、抗がん剤治療が血管内皮細胞(EC)のpoly ADP-ribose polymerase (PARP)活性化を介して将来の血行性がん転移を促進させる機序を解明し、現在臨床で使用され始めているPARP阻害薬の血行性がん転移予防への適応拡大を目指すことを目的とした。EC傷害作用を有するシクロホスファミドや血管新生阻害剤などの抗がん剤はがん転移促進作用を有することが報告されている。これら抗がん剤はDNA損傷を惹起し、その代償反応としてPARP活性化によるDNA損傷修復反応を誘導する。研究代表者は、抗がん剤が血管構成細胞においてPARP活性化→ミトコンドリア由来活性酸素種産生→ERK5転写活性低下→PARP活性化の正のフィードバックループを介して細胞老化関連分泌形質 (SASP)形成に寄与することを報告し、予備実験でシスプラチン(CDDP)ががん転移因子を制御するHIF-1αを誘導することを見出した。ECにおけるSASP形成は内皮間葉転換および接着分子発現亢進に寄与するため、抗がん剤はECにおいてPARP活性化やHIF-1α誘導を介して血行性がん転移を促進させる可能性があるという仮説を立てた。研究代表者は、ECのPARP活性化を引き起こすシスプラチンの反復投与はその後のメラノーマ肺転移を促進させ、PARP阻害剤Olaparib投与によりそれが抑制されることを動物実験により明らかにした。ヒト臍帯静脈内皮細胞をCDDP処置しRNA-seqを行い、CDDP処置により発現上昇する遺伝子群と、The Cancer Genome Atlas解析により抽出されたECマーカー高発現転移巣メラノーマ患者サンプルにおいて生命予後不良と相関する遺伝子群とを比較し、CDDPによる血行性がん転移促進メカニズムに寄与するEC由来因子の同定を進めている。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 3件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (4件)
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