研究課題/領域番号 |
22K20726
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研究機関 | 金沢医科大学 |
研究代表者 |
堀江 哲寛 金沢医科大学, 総合医学研究所, 助教 (00965139)
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研究期間 (年度) |
2022-08-31 – 2024-03-31
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キーワード | がん幹細胞 / 肺がん / バイオインフォマティクス |
研究実績の概要 |
肺がんは日本で最も死亡数が多いがんである。肺がんに対しては従来の殺細胞性抗がん剤の他、分子標的薬などが用いられているが、依然として再発や転移が治療上の課題となっている。その原因として、近年「がん幹細胞」の存在が指摘されている。がん幹細胞は既存の薬物治療や放射線治療に対して抵抗性を持つため、根治にはがん幹細胞の除去が極めて重要であるが、肺がん幹細胞の幹細胞性制御機構はほとんど明らかとなっていない。また、日本人の肺腺がん患者の半数以上で、がん化の原因としてEGFR遺伝子の変異が認められる一方、約3割の患者では原因遺伝子の特性が不明である。そこで本研究では、EGFR遺伝子に変異を持たない非小細胞性肺がんに着目し、バイオインフォマティクスを駆使して1細胞レベルでの詳細な解析を行い、EGFRシグナル非依存的な肺がん幹細胞の幹細胞性を制御する新規因子を同定することを目指す。本年度ではバイオインフォマティクス解析を中心に実施した。まず、公共データベースに存在する非小細胞性肺がん患者の腫瘍組織を用いたシングルセルRNAシークエンスデータから、EGFR遺伝子変異を持たない患者の細胞を抽出した。続いて、幹細胞マーカーの発現等を手がかりにがん幹細胞と(分化した)がん細胞とに分け、幹細胞で発現が上昇していた遺伝子を探索した。これらの遺伝子の機能を抑制することによる副作用を防ぐ観点から、正常細胞でも発現が高い遺伝子を除外した結果、約1,000の遺伝子が選ばれた。また、肺がん幹細胞と正常幹細胞でマイクロアレイ解析を行っている全く別のデータを再解析し、先程ピックアップした遺伝子と比較した結果、共通する遺伝子が数十存在しており、これらが新規治療標的となりうる可能性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、肺がん幹細胞の幹細胞性を制御する因子の探索を目的として、バイオインフォマティクス解析を中心に行ってきた。シングルセルRNAシークエンスを用いた1細胞レベルでの解析と、マイクロアレイを用いた解析を組み合わせることで、新規治療標的となりうる候補遺伝子を数十まで絞り込むことができた。文献検索の結果、これらの遺伝子のほとんどが肺がん幹細胞の幹細胞制御に与える影響が分かっていないことから、新規治療標的となりうることが期待される。また、ヒト肺がん細胞株A549細胞を用いたウェット実験の実験系を準備しており、バイオインフォマティクス解析で得られたデータの評価系の整備を進めている。以上のことから、本研究課題はおおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
現在、単一遺伝子だけではなく、パスウェイ解析等を用いることでより創薬可能性の高い遺伝子の絞り込みを試みている。また、バイオインフォマティクス解析で得られたデータを評価するため、A549細胞を用いたウェット実験を予定している。既報を参考に、培養したA549細胞をセルソーターで解析し、幹細胞マーカーの発現が高い細胞(肺がん幹細胞)と低い細胞とをそれぞれ回収することを予定している。これらを用いて、バイオインフォマティクス解析で絞り込んだ因子の発現をRT-PCR法やウエスタンブロッティング法で確認する。実際に肺がん幹細胞で発現が上昇している遺伝子が見つかった場合は、その遺伝子をノックダウンすることで幹細胞性に変化が見られるかを検討する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験の効率化等によって、当初の予定よりも試薬類を含む消耗品を節約できたため。来年度には使い切ることになるため、次年度使用額はこれらの購入に使用する計画である。
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