本研究は、がん細胞に光感受性色素(IR700)を運ぶ標的指向性分子として上皮成長因子受容体(EGFR)親和性ペプチドを用いた新規光免疫療法薬の開発を行うものである。本年度は、昨年度合成した多価ペプチドとIR700のコンジュゲートに対するさらなる検討を行った。昨年度合成した2価ペプチド-IR700結合体において、がん細胞を用いた標的結合実験および治療実験を行ったところ、その効果は不十分であった。この結果から、IR700の立体的なかさ高さがEGFRに対するペプチドの結合を阻害していることが示唆された。そこで、2価ペプチドとIR700との間に2分子のアミノヘキサン酸リンカーを延長した新規コンジュゲートの合成および評価を行った。マイクロプレートリーダーを用いたがん細胞に対する薬剤の結合実験では、昨年度合成したリンカーの短い薬剤と比較してリンカーを延長した薬剤では蛍光強度が約8倍向上していることが明らかになった。次に顕微鏡を用いた近赤外光照射後のがん細胞の形態変化を観察したところ、標的指向性分子として抗体を用いた際と同様の光免疫療法に特徴的な細胞の膨張が確認された。また、薬剤処理後のがん細胞に対する近赤外光照射による細胞生存率の評価を行ったところ、リンカーの短い薬剤では細胞生存率にほとんど変化がなかったのに対して、リンカーを延長した薬剤では細胞生存率の顕著な低下が確認された。以上の結果から、in vitroではあるが抗体に代わる標的指向性分子としてペプチドを用いた光免疫療法の可能性が明らかになった。今後は、ペプチドをさらに多価とすることで標的結合親和性および治療効果の向上を目指し、担がんマウスを用いたin vivo治療実験を行う予定である。
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