本年度は、チロシン感知機構の解明のため、センサー候補と考えている核内受容体に対する機能解析や、哺乳類細胞を用いたスクリーニングから見出したスプライシングイベントに関する解析を行った。 着目している核内受容体のリガンド結合部位に点変異を導入したショウジョウバエを用いて、チロシン制限に関係する表現型の変化を捉えるため、成虫の寿命、摂食応答、飢餓耐性、代謝制御、生殖能力などを解析した。予想に反して、変異体においてチロシン欠乏の表現型が大きく回復することはなかった。ただし、当該核内受容体は、in vitroにおけるチロシンとの結合アッセイ(マイクロスケール熱運動を用いた手法)においては、ゆるやかに結合すること、点変異を入れると結合しないこと、m-チロシンに対しては結合しないことなどが明らかとなった。これらの結果から、当該核内受容体はATF4に対して抑制性の作用を持つ因子であるが、in vivoにおいては促進性の因子が独立に存在し、その寄与が大きいことが予想された。 哺乳類細胞を用いたスクリーニングでは、チロシン制限によって活性化するATF4活性がスプライシングファクターのノックダウンにより抑制されることが見出された。また、チロシン制限有無によって、イントロン保持といったスプライシングイベントに変化があることが見出された。スプライシングファクターはATF4自体の発現には大きく影響しないことから、ATF4活性を変化せるような因子であることが想定される。またショウジョウバエにおいても、スプライシングファクターのノックダウンでチロシン制限による表現型の一つである飢餓耐性の向上が抑制されることがわかった。 以上の結果から、アミノ酸欠乏時において、核内受容体やスプライシングファクターを介した新たなストレス応答機構が存在する可能性が見出された。
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