本研究では、Notch2受容体が深く関与する肝内胆管形成を題材に、Notchシグナル伝達経路の「使われ方」が形態形成にどのように寄与するのかを検討することを目的とした。本研究開始時点で、レポーターマウス系の一部(UAS-Cre-T2A-miRFP670およびR26GRR)は樹立しており、本研究では、これに加えるべきレポーターマウス(Notch2-Gal4VP16)の作製を試みた。しかし、受精卵へのインジェクションを行ったにもかかわらず、機能的なレポーターマウス(Notch2-Gal4VP16)を得ることはできず、Notch2シグナルの可視化を通じた形態形成原理の解明には至らなかった。その反面、UAS-Cre-T2A-miRFP670をNotchシグナル可視化に利用することについての査読付き国際英文総説(PMID: 37576594)を出版することができた。また、ヒト胎児の公開データベースを用いて、単一細胞レベルでの遺伝子発現制御機構解析(single-cell ATAC-Seq)を行った。その結果、発生中の肝臓では、Notch2受容体の遺伝子発現制御領域のクロマチンが肝芽細胞(将来的に胆管上皮細胞または肝細胞になる前駆細胞)でのみ開いており、対照的に、Notch2受容体のリガンド(JAG1)の発現制御領域のクロマチンが門脈細胞のみで開いていることを見出した。このことはNotch2受容体シグナルが門脈周囲のみに限局し、同部位で胆管上皮細胞を誘導することの分子メカニズムに迫るものであり、査読付き国際英文科学雑誌(PMID: 38129911)で発表した。なお、本研究では、査読付き国際英文科学雑誌に3編の原著論文と1編の総説を出版した。
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