白金製剤であるシスプラチンは、様々な悪性腫瘍に有効な抗がん薬である。しかし、不可逆性の内耳聴覚障害が惹起され、患者の生活の質を著しく損なう。特に小児では、難聴は言語の発達にも影響するため、深刻である。治療薬としてステロイドやビタミンB12が使用されるが、その効果の十分なエビデンスはなく、現在有効な治療法はない。そこで本研究では、大規模医療データベースによる網羅的分析からシスプラチン難聴の保護薬となりうる既存承認薬を同定することを目標とする。 昨年度は、大規模医療データベースから、シスプラチン難聴の保護薬となりうる既存承認薬を同定した。さらに、シスプラチンをマウスに投与後、聴性脳幹反応(ABR)テストを実施し、シスプラチン難聴モデルを作成した。本年度は、候補薬であるランソプラゾールの同時投与を行い、評価した。まず、ABRの結果、シスプラチン投与により32kHzの高音領域の聴力の低下が認められた。また、ランソプラゾール(1 mg/kg、5 mg/kg)をそれぞれシスプラチンと同時投与した結果、有意な聴力改善は認められなかった。ランソプラゾールを同時投与したマウスでは、シスプラチン単独投与マウスと比較して、著しい体重減少が認められた。これは、ランソプラゾールによる毒性発現の可能性が考えられ、今後、投与量を再検討および、OCT2ノックアウトマウスなどを用いて、実験を行っていく。
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