研究課題/領域番号 |
22K20742
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研究機関 | 大分大学 |
研究代表者 |
梅田 涼平 大分大学, 医学部, 助教 (90966300)
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研究期間 (年度) |
2022-08-31 – 2024-03-31
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キーワード | VRK1 / zebrafish / 小頭症 / 運動機能異常 / 脳・神経 / 行動解析 |
研究実績の概要 |
VRK1はセリン/スレオニン蛋白質キナーゼの一種であり、ヒトにおいて小頭症や運動機能障害を特徴とする神経変性疾患の原因遺伝子の一つであることが報告されている。また、VRK1を欠損したマウスでは運動機能の異常や、神経細胞の脳内分布の異常が報告されている。しかしながら、VRK1が関与する小頭症や運動機能障害がどのような分子メカニズムにより引き起こされるかについては未だ解明されていない。本研究では、VRK1 を欠損させたゼブラフィッシュ(VRK1KO)を作製し解析することで、VRK1が関与する神経変性疾患の新たな病態メカニズムについて明らかにすることを目的とする。 VRK1KOを作製し、一連の行動解析として、自発行動量や不安様行動の解析を実施したところ、VRK1KOでは野生型ゼブラフィッシュと比較して自発行動量、不安様行動に異常を認めた。これらの行動学的変化の要因となる器質的な変化を解析するために脳の解剖学的な解析を実施した。その結果、VRK1KOは野生型ゼブラフィッシュに比べ成長遅延および小頭症を認めた。さらに前脳部位での神経細胞の分布を評価したところ、VRK1KOにおいて神経細胞の分布異常を認めた。以上より、形態学的にも小頭症と類似する変化が認められ、VRK1が脳の正常な発達において重要な役割を持つことを示した。今後VRK1が小頭症の病態基盤に寄与するのかについて解析を進め、その治療を見据えた病態基盤の解明を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り、VRK1遺伝子を欠損したゼブラフィッシュ(VRK1KO)を樹立し、形態学的解析および認知・記憶以外の行動解析を完了している。また、免疫組織学的解析では、前脳領域における神経細胞の分布の異常を認めた。現在、神経細胞の分布をHuC Promoterの下流に蛍光遺伝子であるKaedeを組み込んだトランスジェニックゼブラフィッシュ (HuC:Kaede)とVRK1KOを掛け合わせたゼブラフィッシュ(HuC:Kaede / VRK1KO)を作製中であり、今後、詳細に解析しメカニズムの解明を目指す計画である。さらに、小頭症とVRK1の関連性を見出すために、電子顕微鏡を用いて細胞内の形態学的な解析を実施する計画である。そのためのサンプル作製は完了している。また、認知・記憶を解析する行動解析について、現在実験プロトコールの立ち上げが完了し、野生型のゼブラフィッシュを用いた検討を実施中であり令和5年度にはVRK1KOを用いた解析を実施する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
本研究において当研究室にて保有しているHuC:KaedeおよびISLET1:EGFPをVRK1KOと掛け合わせることで、HuC:Kaede / VRK1KOおよびISLET1:EGFP / VRK1KOを作製し、ライトシート顕微鏡下にて神経形態の詳細な解析を行う計画である。具体的にはライトシート顕微鏡を用いることで、脳の神経細胞や神経軸索の形態だけではなく神経細胞の三次元的な配置について解析することが可能となり、VRK1の欠損によりどのように神経の分布が変化したかを立体的に解析できると考えている。またVRK1は細胞の増殖や機能的クロマチン形成において重要な役割を担っていると報告されている。そのため、VRK1の欠損によって神経細胞の増殖や核膜形成に異常を認める可能性が高い。そこで、神経シナプスの性状や神経細胞の状態を解析するため、電子顕微鏡を用いた細胞の微細構造の解析も予定している。さらに、脳の認知や記憶の評価を行うための行動実験がまだ未実施であるため、新たな行動実験系を確立し解析する計画である。以上の実験によりVRK1が欠損することで起こる脳の低形成が、どのような神経の形態の異常によって発生するのかを解明する。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和4年度は、HuC:KaedeおよびISLET1:EGFPゼブラフィッシュを用いVRK1KOと掛け合わせHuC:Kaede / VRK1KOおよびISLET1:EGFP / VRK1KOを作製中であったため、消耗品の支出が発生しなかった。次年度にはHuC:Kaede / VRK1KOおよびISLET1:EGFP / VRK1KOを用いてライトシート顕微鏡下での解析を実施する予定である。プロトコールがすでに確立していた行動実験は令和4年度中に実施したが、認知・記憶に関する行動実験を確立させることが出来なかったため消耗品の支出が発生しなかった。次年度には野生型ゼブラフィッシュを用いて認知・記憶に対する行動実験系を確立し、解析する計画である。分子メカニズムの分子生物学的解析についても次年度を予定している。
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