食事誘発性熱産生は食後の生理応答としてエネルギー代謝亢進に関連する重要な生理反応であるが駆動原理には不明な点が多い。本研究では、食事誘発性熱産生の駆動原理を解明すべく、腸GLP-1の体熱産生作用に着目し、この作用における中枢AVP神経シグナリングの関与を調べた。当該年度の実施項目は下記の2点である。 (1)腸GLP-1分泌による中枢AVP神経活動を記録し、腸GLP-1分泌によるAVP神経活性化がどのタイミングで生じるのか検討した。AVP神経の活動は昨年度に実験系を確立したFiber Photometry法により覚醒下・自由行動下のマウスから記録した。アルロース経口投与による腸GLP-1分泌は視床下部室傍核および視索上核のAVP神経を投与直後に60-90分程度活性化することが明らかとなった。 (2)腸GLP-1分泌による体熱産生作用の責任神経を検討した。アルロース→腸GLP-1分泌→求心性迷走神経軸は視床下部室傍核および視索上核を瞬時に活性化させることがFiber Photometryの実験で明らかとなったが、どちらの神経核が体熱産生作用を担っているのか不明である。そこで、化学遺伝学手法(2022年度に実験系を確立)を用いて、各神経核のAVP神経を特異的に抑制することで、体熱産生に関与するAVP神経発現脳神経核を同定した。その結果、ある一方のAVP神経を特異的に抑制した場合のみ、アルロース経口投与後の体温上昇が抑制された。本研究は、腸GLP-1分泌による体熱産生作用は視床下部メカニズムの一旦を解明した。
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