最終年度の令和5年度は、肝臓門脈域に局在するMarco陽性免疫制御性マクロファージが肝疾患の発症や病態進行に与える影響について検証した。この免疫制御性マクロファージにおいてスカベンジャー受容体Marcoは、肝臓に入ってきた病原体の貪食処理に関与し、さらに抗炎症性サイトカインinterleukin-10(IL-10)の発現を増大させる。実際にMarco欠損マウスでは貪食能力とIL-10発現が低下することを確認したので、このマウスを免疫制御性マクロファージの機能欠失モデルとして使用した。野生型マウスとMarco欠損マウスに高脂肪食を与えて非アルコール性脂肪肝炎を誘導したところ、肝障害マーカーの血清中ALTとASTの数値はともにMarco欠損マウスの方が高い値を示した。さらにMarco欠損マウスでは、脂肪肝誘導後6週目に脂肪滴が野生型マウスよりも多く生じることを確認した。以上の結果から、門脈域に局在する免疫制御性マクロファージは脂肪肝炎の進行を抑制する働きをもつことが明らかになった。 研究期間全体を通して、肝臓の門脈域ではMarcoを発現するマクロファージが局在しており、肝臓に入ってきた異物を貪食しながらinterleukin-10を産生して周辺の炎症を抑えていることを明らかにした。食餌性非アルコール性脂肪肝炎など腸内細菌の侵入が関係する炎症性肝疾患では、このマクロファージが疾患の発症あるいは病態進行を抑制することが示唆された。さらに、腸内細菌Odoribacteraceaeとこの細菌が産生する二次胆汁酸イソアロリトコール酸がこの免疫制御性マクロファージの数を増大させることを明らかにした。
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