研究課題/領域番号 |
22K20777
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研究機関 | 札幌医科大学 |
研究代表者 |
水江 由佳 札幌医科大学, 医学部, 研究員 (20464480)
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研究期間 (年度) |
2022-08-31 – 2024-03-31
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キーワード | がん免疫 / 抗体医薬 / 人工抗体 / がん抗原 / 尿路上皮癌 / 化学療法抵抗性 |
研究実績の概要 |
尿路上皮癌は、泌尿器系悪性腫瘍の中でも致死率が高い疾患である。シスプラチン(CDDP)を中心としたプラチナ製剤は尿路上皮癌治療のキードラッグとなるが、化学療法抵抗性が問題となる。我々は、化学療法抵抗性尿路上皮癌に対する有効な治療法開発を目的とし、リガンドーム解析による膀胱がん幹細胞からHLA-A*02:01拘束性のClaspinペプチド(HLA-A2/Claspinぺプチド)を癌抗原ペプチドのひとつとして同定した。さらに、膀胱がん細胞株(UM-UC-3)にCDDPを添加培養し続けることで樹立したCDDP耐性細胞(UM-UC-3 CR)でのClaspinの強発現、およびClaspin遺伝子をsiRNAで欠失した耐性細胞株のCDDPに対する感受性の増加を示し、CDDP耐性に対するClaspinの重要な関与を明らかとした。そこで、本研究では、細胞表面上に提示される‘HLA-A2/Claspinぺプチド’を認識する特異的人工抗体開発を目的とした。はじめに、抗体の抗原を認識する可変領域の断片である軽鎖可変領域と 重鎖可変領域を柔軟なをリンカー配列で連結し、C末端にHis-tagを結合させた一本鎖抗体(scFv)を基本構成とする複数の候補抗体クローンをファージディスプレイ法により獲得した。このHLA-A2/Claspinペプチド複合体特異的scFvのタンパク質を大腸菌より作製し、ELISA法により11種類の陽性クローンを選定した。次に、これら候補抗体scFvの中からフローサイトメトリーおよび免疫蛍光染色法を用い、Claspin ペプチドに対し、特異的かつ高い反応性を示すクローンを特定できた。さらに、特定した抗体はUM-UC-3 CR細胞を認識することを確認し、本研究で作製したscFv抗体がClaspinを高発現するCDDP耐性膀胱がん細胞に反応する特異的抗体である可能性を示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1. ファージディスプレイ法により、我々独自で作製したscFvファージディスプレイライブラリを用い、HLA-A2/ HIVペプチド(陰性選択)とHLA-A2/Claspinペプチド(陽性選択)による後者を特異的に認識するクローンの選択を行った。選択後、培養プレートで形成した大腸菌(XL1-Blue 株)クローンを94個ピックアップし、可溶化scFvを作製した。HLA-A2/HIVおよびClaspinビオチン化モノマーを各々ストレプトアビジン固相ELISAプレートに結合し、94種類の可溶化scFvをHRP標識抗FLAG M2抗体で検出し吸光度を測定した。吸光度の差(Claspin - HIV)が1.000以上を示したクローンを陽性候補とし、11個のクローンを得ることができた。 2. Claspinおよび陰性コントロール(HIV, EBV, CMV)ペプチドを添加したT2細胞(HLA-A*02:01発現細胞)と候補scFvタンパク質を反応後、FITC標識抗His-tag抗体で検出し、FACS解析を行った。これにより11クローンからT2細胞上のHLA-A2に過剰提示されたClaspinペプチドに対して特異的結合を示す3種を特異的抗体クローンとして特定できた。3種クローンは、T2細胞へ添加したClaspinペプチドの濃度依存的な反応も示し、抗体の特異性を確認できた。 3. 最も結合能の高かった1種クローンとUM-UC-3 CR細胞を反応後、2.同様に検出し、FACS解析を行った。T2細胞上の過剰発現HLA-A2/Claspinぺプチドに比べると極めて低い反応ではあったが、抗Claspin ペプチド特異的人工抗体が、シスプラチン耐性株を認識しうることを示すことができた。
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今後の研究の推進方策 |
本研究で作製した抗HLA-A2/Claspinペプチド特異的人工抗体(scFv)は、Claspinを高発現するシスプラチン耐性株に反応する特異的抗体である可能性が示唆された.特定したscFvから二価化や抗Claspinペプチド/CD3バイスペシフィック抗体への検討を進めることで、これら抗体がCDDPを中心としたプラチナ製剤に耐性を示すがん細胞を特異的に標的できる免疫療法剤となることが期待される。そこで、開発した抗体の機能解析に注力して以下の方策で研究を推進していく。 1. HLA-A2/Claspinペプチド複合体特異的scFvの2価抗体用コンストラクトを作製し、humanおよびmouse IgG1 Fc部位を有する2価抗体(scFv-Fc)を発現・産生する安定発現細胞株を樹立する。 2. HLA-A2/Claspinペプチド複合体特異的2価抗体(scFv-Fc)を発現する安定発現細胞由来の抗体を培養上清より精製し、抗体依存性細胞傷害(ADCC)活性や補体依存性細胞傷害活性(CDC)活性をELISPOTやFACS解析で行い、抗体による細胞傷害性へとつなげられるか検討する。 3. 作製抗体による細胞傷害性が認められた場合、研究の進捗状況に応じて、がん細胞を移植したマウスへ抗体投与し、in vivoでの抗体の抗腫瘍効果の有無を検討する。
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