研究課題/領域番号 |
22K20797
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
三宅 俊介 熊本大学, 病院, 薬剤師 (70964485)
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研究期間 (年度) |
2022-08-31 – 2024-03-31
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キーワード | 個別化医療 / 分子マーカー |
研究実績の概要 |
新規腫瘍抑制遺伝子CYLDに着目した分子病態解析により、卵巣癌患者の中でも標準治療不応・予後不良な患者群に新規薬物治療を提供することを最終目的として、本研究期間内ではCYLD発現低下時の悪性化メカニズムを解明すべく以下の2つのサブテーマを実施し研究成果を得た。 【1】腫瘍組織でのCYLD発現と臨床データの相関による病態解析 当院で加療した卵巣癌患者 87例のCYLD免疫染色結果について組織型、腫瘍サイズ、BRCA遺伝子変異等の患者背景による層別化解析を実施した。その結果、組織型によりCYLD発現低下の影響が異なることが示唆され、卵巣癌の中でも特に漿液性腺癌においてCYLD発現の高低が生命予後と相関する傾向にあることが見出された。 【2】網羅的解析によるCYLD標的分子の探索 siRNA導入によりCYLD発現を抑制した卵巣癌由来細胞株(OVCAR8細胞)を用いて質量分析(LC-MS/MS)による網羅的解析(プロテオミクス解析およびリン酸化プロテオミクス解析)を行い、CYLD発現低下時に変動している因子を探索した。その結果、プロテオミクス解析およびリン酸化プロテオミクス解析のいずれにおいてもCYLD発現低下時には特にリボゾーム関連タンパク質の発現が大きく変動していることが見出された。さらに、TCGAデータベースを用いたGene Set Enrichment Analysis(GSEA)を行った結果、上記と同様にリボゾーム関連遺伝子の変動が示唆され、CYLD発現低下時の生命予後不良や治療抵抗性にリボゾームが関与している可能性が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究課題では、CYLD発現低下時の腫瘍組織変化の分子メカニズムを解明することで、卵巣癌の新規治療法を見出すために以下の手順で実行を計画していた。①腫瘍組織でのCYLD発現と臨床データの相関による病態解析②網羅的解析によるCYLD標的分子の探索③CYLD発現低下時の新たな治療候補分子標的薬の探索④動物モデルを用いた前臨床試験 しかしながら、2022年度においては新型コロナウイルス感染拡大により、研究室の活動自粛などの影響により従来通りの研究が十分に行えず、当初の計画よりやや遅れている状態となっている。
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今後の研究の推進方策 |
研究期間全体の目標である、CYLDに着目した分子病態解析により卵巣癌患者の中でも標準治療不応・予後不良な患者群への新規薬物治療の提供を実現するため、昨年度から引き続き、本年度は以下の項目を中心に研究を実施する。 【1】PARP阻害剤使用症例を含めて臨床検体の症例数を増加させてCYLD免疫染色を行い、CYLD発現と各種臨床データとの相関を解析する。 【2】プロテオミクス解析の結果に基づき、リボゾームその他変動の見られた分子について卵巣癌細胞株を用いてその発現変動の詳細を確認し、当該分子を標的とした薬剤の感受性プロファイリングを実施する。 【3】前項までに見出された治療薬候補についてマウスモデルを用いた前臨床試験を行い、CYLD発現を薬剤選択マーカーとする新規治療法について、臨床応用へ向けたエビデンスを構築する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2022年度においては新型コロナウイルス感染拡大により、研究室の活動自粛などの影響により従来通りの研究が十分に行えず、計画より支出が少なくなり次年度使用額が生じた。 2023年度は当初計画より修正した「今後の研究の推進方策」に記載した項目に従い研究を実施する。そのため、必要備品を購入し、順次実施計画に沿って研究を行う。
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