研究課題
卵巣癌は症状に乏しく早期発見困難であることから、腹膜播種を伴う進行卵巣癌で診断されることが多い。また、腹膜播種は腹腔内全体に広がるため外科的完全切除が困難であり、化学療法奏功後も再発の温床となることから、予後を決定する病変である。しかし有効な治療法は未だに確立されておらず予後不良である。そのため、腹膜播種のメカニズムを解明し、腹膜播種を標的とした新規治療戦略が必要である。研究代表者はこれまでに、本来防御的な腹膜中皮細胞が、癌細胞由来のTGF-βによって上皮間葉転換(EMT: epithelial-mesenchymal transition)を遂げ、癌促進的な癌関連中皮細胞(CAM: Cancer associated mesothelial cell)に変化することを見出した。またCAMが腹膜播種の癌微小環境に多数存在し、VEGF分泌を介した悪性腹水の生成や、fibronectin分泌を介した卵巣癌プラチナ耐性化、thrombospondin-1分泌を介した癌細胞接着の亢進に寄与することを明らかにした。卵巣癌の腹膜播種は、大網や腸間膜等の脂肪組織近傍に好発し、特に大網にはOmental cakeと呼ばれる巨大な播種巣を形成する。そこで本研究では、脂肪組織に腹膜播種が形成されやすい理由とそのメカニズムの解明を、腹膜中皮細胞に注目して行う。まず脂肪組織近傍の腹膜中皮細胞における癌細胞接着亢進に寄与する分子を同定する(課題①)。さらに、同定した分子を抑制する治療薬候補を、化合物ライブラリーを用いて検索し、卵巣癌腹膜播種マウスモデルで治療効果を検証する(課題②)。
3: やや遅れている
①卵巣癌患者の大網検体から、表層の腹膜中皮細胞をレーザーマイクロダイセクションにて抽出し、プロテオーム解析を行うサンプル準備を進めている。腹膜中皮細胞は表層を一層に覆っているため、細胞数が少なく、解析に必要なサンプル量を確保するのに多数の薄切切片が必要であるため、時間を要している。卵巣癌患者の中でも、境界悪性卵巣腫瘍の患者、初期卵巣癌患者の腹膜播種を全く来していない大網と、腹膜播種をすでに来している進行卵巣癌患者の大網の腹膜中皮細胞の性質変化を明らかにすることで、腹膜播種形成に重要な分子を同定することが可能と考える。また、我々は活性型ビタミンDが、卵巣癌細胞の接着に極めて重要な役割を果たす癌関連中皮細胞を、正常な癌抑制的な性質に誘導することを明らかにしているが、ビタミンDによる高カルシウム血症等の副作用が課題であった。そのため、ビタミンD誘導体やビタミンD受容体アンタゴニストを用いて副作用なく同等の効果が得られるかを検証中である。
現時点で予定の変更はない。①についてはサンプル準備が整い次第、プロテオーム解析を行い、癌細胞接着を亢進させると考えられる分子を同定する。そして、細胞実験でその分子の意義を確認し、上述の課題②に進む予定である。
レーザーマイクロダイセクションによるパラフィン切片からの細胞抽出に要する費用、プロテオーム解析を共同研究機関である名古屋大学医学部医学系研究科に委託する予定であり、その費用が必要である。またプロテオーム解析にて同定された分子の意義を確認するために、Western blottingや免疫染色に用いる抗体の購入費用、siRNA、PCRプライマー等の購入費用が必要である。さらに、マウスモデルで効果を確認するためマウスの購入費用が必要である。
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