研究実績の概要 |
申請者は統合ゲノム解析の結果に基づき、マウス肝細胞癌株にてTrp53ノックアウト、MYC強制発現を行い、高悪性度肝細胞癌株を作製した。 同細胞株は細胞周期異常や核小体異常といった増腫瘍性の増強を示唆する所見がin vitroの実験で確認され、同細胞株を同系統C57BL/6マウスに皮下移植したところ、高度な増腫瘍性を有する腫瘍が形成されることを確認した。 上記の腫瘍を摘出し、癌免疫微小環境について各種免疫染色を施行したところ、同腫瘍内部にはCD3, CD8陽性細胞といったT細胞は乏しく、Arginase-1陽性のM2マクロファージが豊富に存在することが確認され、同腫瘍が免疫抑制性の癌免疫微小環境を有することが示唆された。また、CD31にて血管内皮細胞を染色すると、vessels encapsulating tumor clusters (VETC) と呼ばれる、癌細胞を血管内皮細胞が取り囲む構造を形成していた。VETCと癌免疫微小環境との関連を評価するため、経時的にマウスの皮下腫瘍を摘出したところ、移植後14日の時点ではVETCは形成されておらず、腫瘍内のリンパ球も豊富に存在していたが、移植後21日においては、VETCの形成を認め、腫瘍内のリンパ球はほとんど確認されなかった。以上から、VETCの形成と免疫抑制性の癌免疫微小環境の関連が示唆された。 さらに、同皮下移植モデルに対して、レンバチニブによる治療実験を行ったところ、治療群の摘出検体ではVETCが消失し、腫瘍内にTリンパ球が確認され、免疫チェックポイント阻害剤の奏功が期待された。 以上の実験から、MYC強制発現肝細胞癌は免疫抑制性の癌免疫微小環境を有し、その原因となしてVETCと呼ばれる構造が関係しており、レンバチニブによってVETCを制御することで免疫チェックポイント阻害剤の奏功に寄与する可能性が示唆された。
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