研究課題
遠隔組織に転移した乳癌細胞は、転移部位において周囲ニッチ細胞からのサポートを利用して転移巣の形成を果たすことが知られている。それ故、転移部位におけるニッチ形成メカニズムは、乳癌の転移を阻害するための重要な薬剤標的となり得る。近年、二次組織に転移を果たした乳癌細胞は、血管内皮細胞と近接して存在し、「血管性ニッチ」と呼ばれる細胞間クロストークを介してその場に定着・生存し、転移巣を形成すること明らかとなってきた。すなわち、乳癌細胞と血管内皮細胞のクロストーク機構は、まさに転移性乳癌の進行を抑制するための有用な薬剤標的となり得るが、その分子実体は未だ殆ど解明されていない。本研究では、乳癌の肺転移における血管性ニッチ機能因子を同定し、その集中解析を通して転移性乳癌の治療における効果的な薬剤標的を提案する。乳癌細胞肺転移モデルを用いて、転移を有する肺から肺血管内皮細胞を単離し、その遺伝子発現を解析した。特に、周囲細胞とのクロストークが可能な分泌蛋白質に注目して解析を進めた。その結果、転移が起きた際に肺血管内皮細胞で優位に発現上昇する分泌蛋白質を9因子同定した。In vitroでの乳癌細胞および肺血管内皮細胞の共培養によって、これらの因子の分子機能を解析した。その結果、Serpine1は転移癌細胞の抗癌剤耐性を上昇させること、またFjx1は乳がん幹細胞性を誘導することが示された。今後、これらの血管性ニッチ因子の機能メカニズムを検討する予定である。
2: おおむね順調に進展している
乳癌肺転移において機能する血管性ニッチ因子として、Serpine1とFjx1の2因子を同定した。またこれらの因子の転移部位における機能を示したため、現在のところ概ね順調に進展している。
Serpine1およびFjx1が乳癌細胞に与える影響を特定するため、これらのリコンビナント蛋白質を用いて乳癌細胞を刺激し、その遺伝子発現変化を、RNAシークエンスにより解析する。また、遺伝子発現プロファイルを用いたGene set enrichment analysis やパスウェイ解析によって、機能因子存在下で誘導される乳癌細胞の性質変化を明らかにする。さらに、これらの因子が乳癌細胞に作用し、どのようなシグナル伝達系を駆動するのかを、リン酸化キナーゼアレイによって解析する。本研究で使用するアレイでは37種類のキナーゼの活性化を検出でき、主要なシグナル伝達経路を網羅する構成となっている。患者由来乳癌組織を超免疫不全マウスに移植するPatient-derived xenograft モデル(PDXモデル)を用いることで、より臨床に近い腫瘍環境での薬剤有効性を評価することが可能である。乳腺皮下に患者由来腫瘍組織片を移植後、肺転移が観察されるPDXモデルを用いて、同定した血管性ニッチ機能因子またはそのシグナル伝達機構を、中和抗体や阻害剤の投与によって阻害し、乳癌の肺転移が抑制されることを示す。これにより、同定した血管性ニッチ因子が、転移性乳癌の創薬標的となり得ることを証明する。
少額のため使用が困難であったため、翌年度と合わせて消耗品購入に充てる予定である。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 1件、 招待講演 2件)
Nature Cancer
巻: 4 ページ: 486-504
10.1038/s43018-022-00353-6