本研究では、膵癌分子サブタイプの可塑性(Basal-like-to-Classical shift)の制御因子の同定を試みた。まず、膵癌患者腫瘍組織移植モデル(PDXモデル)とPDX由来細胞株の遺伝子発現プロファイルの比較から、Subtype Programの可塑性を制御している可能性のある遺伝子を探索した。候補遺伝子としてTFFs(TFF1/TFF2/TFF3)を同定し、我々のデータだけでなく、公開データセットでも同様の傾向にあることが確認された。次に、公開されている膵癌single cell RNA-seqデータをダウンロードし、Trajectory解析を行なった。Un-splicedなmRNAプロファイルの類似度から計算したPseudo-timeは、Basal-likeからClassicalへと向かうことが明らかとなった。TFFsの未熟なUn-spliced mRNAと成熟mRNAの分布には大きな乖離があり、TFFsがBasal-like→Classicalの流れと共に成熟していく様子が観察され、subtype programの柔軟性に関与している可能性が示唆された。しかしながら、2次元培養細胞株は基本的にBasal-likeにshiftされており、TFFsの発現もほとんどないことから、Classical programへのshiftを検証するのに2次元培養は適切でないと判断し、in vivo実験系として鶏卵漿尿膜法(CAMモデル)を確立した。PDX由来の低継代細胞株を移植したCAMモデルでは、細胞株に比べTFF1・TFF2の発現が顕著に上がることを確認した。最後にsiRNAを用いたTFF1ノックダウンで、膵癌分子サブタイプの各種マーカーを顕著に抑制することを示した。以上のことからTFF1は膵癌分子サブタイプの制御因子であることが示唆された。
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