研究課題/領域番号 |
22K20831
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研究機関 | 名古屋市立大学 |
研究代表者 |
服部 有希子 名古屋市立大学, 医薬学総合研究院(医学), 講師 (70966077)
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研究期間 (年度) |
2022-08-31 – 2024-03-31
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キーワード | 前立腺癌 / 陽子線治療 / MRI / 神経血管束 |
研究実績の概要 |
本研究は、前立腺癌に対する陽子線治療において神経血管束と前立腺周囲神経ネットワークへの照射がQOLに与える影響の解明を目的としている。陽子線治療の前に前立腺背側にハイドロゲルスペーサーを注入した症例(ゲルあり群)と注入しなかった症例(ゲルなし群)では、神経血管束と前立腺との位置関係が変わることが推測される。ゲルあり群となし群について神経血管束と前立腺周囲組織の照射線量とQOLの関連性を調べる。 対象は、前立腺癌対してCTに基づいて治療計画を作成し、60GyE/20Frの陽子線治療を施行した症例を抽出した。これらの症例のうち、陽子線治療の前にホルモン治療の介入を受けた症例や経過観察中に再発等でホルモン治療の介入があった症例は除いた。70例について、MIMmaestroを使用し、陽子線治療前に撮影したMRIのT2強調像を治療計画用CTとfusionして、MRIで描出される神経血管束と前立腺周囲組織のcontouringを行った。 QOLについては全例でデータ収集を終了し、解析を開始した。排尿機能評価の一つであるIPSS(国際前立腺スコア)において、治療前と治療後のいずれのタイミングにおいても、ゲルあり群、ゲルなし群で大きな差を認めなかった。その一方で、EPIC(Expanded Prostate Cancer Index Composite)においては、排便機能ドメインにおいて、ゲルあり群で陽子線治療開始前からスコアがより低く、治療後も低い傾向があった。また、性機能ドメインについては、ゲルあり群でスコアが高い傾向にあった。ゲルがあると、ゲルのない群に比べて排便機能のQOLがより悪く、性機能はよりよい傾向にあることが示唆される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実際にMRIをもとに神経血管束と思われる部分を観察すると、走行や直径の個人差が大きいと思われ、contouringの統一的な方法の検討に時間を要した。精嚢から前立腺外背側にかけて分布するT2強調像で低信号として認識できる部分を血管として定義し、その周囲にマージンをとった部分を神経血管束として評価することとした。現在、神経血管束と前立腺周囲の組織についてcontouringを行っている途中である。線量評価の部分はやや遅れているものの、研究の全体として順調に進んでいると考えられるのは、QOLについて、全例でデータ収集を終えることができ、IPSS、EHS、EPICについてすでに解析を進められていることが大きい。
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今後の研究の推進方策 |
残る一部の症例について2023年度にcontouringを行い、CTに紐づけられた線量分布図と重ね合わせる。ゲルあり群、ゲルなし群のそれぞれについて、線量体積ヒストグラム解析プログラムを用いた照射線量の評価を行う。神経血管束と前立腺周囲組織における、低線量、中等度線量、高線量の体積などについてデータ集積を行い、両群を比較する。すでに得られているQOLの経時的変化に関して、排尿機能、排便機能、性機能について両群の相違を明らかにする。神経血管束と前立腺周囲組織への照射線量と、これらのQOL項目との関連性を調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
MRIを基にしたcontouring方法の検討に時間を要し、解析までたどり着けていないことが大きい。また、学会発表を行えなかったことも影響している。 2023年度には、神経血管束と前立腺周囲組織に対する照射線量とQOLとの関連性についての解析と学会発表を予定している。
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