研究課題/領域番号 |
22K20838
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研究機関 | 東海大学 |
研究代表者 |
工藤 海 東海大学, 医学部, 奨励研究員 (60967165)
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研究期間 (年度) |
2022-08-31 – 2024-03-31
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キーワード | 脂質代謝 / Ferroptosis / 悪性リンパ腫 / がん |
研究実績の概要 |
腫瘍細胞は自身の生存に有利な微小環境を構築ために細胞内外の脂質の流れ・組成を統御することが知られているが、その分子機序や生物学的意義等の詳細は不明である。本研究ではEpstein-Barr Virus(EBV)陽性リンパ腫において、腫瘍細胞が細胞外アラキドン酸(AA)のトランスポーターであるFATP2の発現調節を介して、膜脂質過酸化による細胞死「Ferroptosis」への耐性を獲得していることが解明され、さらにその詳細なメカニズムを調査した結果、以下の成果が得られた。(1)EBV陽性患者では血清中AA量が健常人よりも多いが、EBV感染腫瘍細胞では正常細胞よりもAA量が少なく、マウスモデルにおいても同様の傾向を示す。(2)ウイルス由来miRNAにより誘導されるHypoxia SignatureはFATP2発現を抑制する。(3)FATP2過剰発現腫瘍細胞では皮下腫瘍の生着率・腫瘍径が低下し、過酸化脂質が増加する。(4)悪性黒色腫や膠芽腫等のリンパ腫以外のFATP2低発現悪性腫瘍においてもFATP2の過剰発現により腫瘍の生着率および腫瘍径が低下する。(5)AA含有リポソームの投与は一部の悪性腫瘍において抗腫瘍効果を示す。 以上の知見より、悪性腫瘍では細胞内へのAA流入をFATP2発現抑制を介して制御し、Ferroptosisへの耐性を獲得することが証明され、それが腫瘍の悪性度に寄与し得る可能性が示唆された。(論文投稿中)
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
EBV陽性リンパ腫におけるFATP2を介したFerroptosis耐性獲得機構の分子機序の一端を解明することができ、当初の研究目的はほぼ達成したと言える。一方で、他のがんにおける発現調節機構までは解明には至っておらず、追加で更なる調査が必要と考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
EBV陽性リンパ腫以外の癌腫におけるFATP2の発現調節機構の解明を目指し、低酸素や脂質組成などの細胞外環境やFATP2の上流にある分子が、どの程度FATP2の発現に寄与するか検討する。また、各癌腫でどの程度のAA流入がFATP2に依存しているのかを検討する必要があると考えられる。加えて、リポソームを用いたAAの直接的導入で影響を示さない癌腫もみられたことから、腫瘍細胞内でのAA結合リン脂質の動態や脂質メディエーターの関与について詳細な解析を行う。 一方でFerroptosis・脂質の過酸化は脳梗塞や急性腎障害、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、NASHなどがん以外の疾患にも深く関与することが報告されており、これら疾患における脂質組成の変化、関連分子の調査を進める。脳梗塞および腎障害においては既に予備的な知見が得られており、今後はそれら疾患を中心に脂質制御がもたらすFerroptosisへの影響を探索する。
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