研究課題/領域番号 |
22K20840
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研究機関 | 国立研究開発法人国立がん研究センター |
研究代表者 |
吉田 健一 国立研究開発法人国立がん研究センター, 研究所, 分野長 (50738226)
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研究期間 (年度) |
2022-08-31 – 2024-03-31
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キーワード | 血液細胞 / 全ゲノム解析 |
研究実績の概要 |
本研究では単一細胞由来の血液細胞コロニーを作製して全ゲノム解析を行うことにより、正常な血液細胞に獲得される遺伝子異常(変異、挿入欠失、構造異常、染色体コピー数異常)の蓄積量や、塩基置換などのパターン(変異シグネチャー)の解析を行う。得られたデータから、正常な血液細胞に遺伝子変異が蓄積する原因を解析し、さらに年齢や飲酒、喫煙などの環境因子との関連について解析することにより、血液腫瘍の発症機序を明らかにすることを目的としている。 本年度はまず本研究について所属施設の倫理委員会に申請を行い、承認が得られた。多数症例の検体を解析する前の予備実験として血液腫瘍の2症例から造血コロニーの作製およびコロニーから抽出した微量DNAからの全ゲノムシークエンスのライブラリー作成を行う実験を行った。回収したコロニーの大部分からライブラリー作製に必要な量のDNAが抽出可能であり、ライブラリー作成およびシークエンスを行った。解析したデータをがん解析用のパイプラインで解析して体細胞性変異を同定し、変異アレル頻度から作製した造血コロニーが単一細胞由来であることを確認した。 今後予定している多数の臨床情報付きの健常人由来血液検体を共同研究施設から提供を受ける共同研究について、所属施設、共同研究施設での倫理審査が完了した。今後多数の健常人血液検体を収集し、年齢や生活歴の情報から症例を選定し、実験・解析を行なっていく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度はまず本研究について所属施設の倫理委員会に申請を行い、承認が得られた。多数症例の検体を解析する前の予備実験として、まず血液腫瘍の2症例から造血コロニーの作製およびコロニーから抽出した微量DNAからの全ゲノムシークエンスのためのライブラリー作製を行う実験を行った。2症例とも30個程度と解析に十分な数のコロニーが作製でき、回収したコロニーの大部分からライブラリー作製に必要な量のDNA(10-100ng)が抽出可能であり、実際にライブラリー作製および全ゲノムシークエンスが可能であった。得られたデータをがんのゲノム解析に使用されているパイプライン(genomon2)を使用して解析して、同定されたヘテロ接合性変異のアレル頻度が0.5程度であったことから、作製した造血コロニーが単一細胞由来であることが確認され、現在さらに解析を進めている。今後予定している多数の臨床情報付きの健常人由来血液検体を共同研究施設から提供を受ける共同研究について、所属施設、共同研究施設での倫理審査の申請を行い、承認が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
今後50名程度の健常人血液検体を収集し、年齢や生活歴の情報から症例(10-20例程度)を選定し、コロニー(各症例から10-15個)作製およびシーケンスの実験を行なっていく予定である。また、単一細胞由来検体の全ゲノムシークエンスデータを解析するパイプラインについても、がんのゲノム解析に使用されているパイプラインをさらに改変して構築していく。正常な血液細胞に獲得される遺伝子異常(変異、挿入欠失、構造異常、染色体コピー数異常)の蓄積量や、塩基置換などのパターン(変異シグネチャー)のデータから、正常な血液細胞に遺伝子変異が蓄積する原因を解析し、さらに年齢や飲酒、喫煙などの環境因子との関連について明らかにする。また過去の欧米のデータ(Mitchell et al., Nature. 2022)についても併せて解析し、本研究でのデータと比較して人種差による影響を解析する。さらに、同一症例から多数のコロニーを作成して解析することにより、各コロニーで同定された遺伝子異常を基に解析した造血細胞の系統樹を作成し、系統樹の枝の単位で遺伝子異常を解析することにより、ドライバー遺伝子獲得のタイミングについても解析する。これらの結果から、正常血液細胞に遺伝子異常が蓄積して、血液腫瘍を発症する機序を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
前年度の研究内容は実験の条件検討が主であり、次年度に多数検体についてコロニー作製やシークエンスの実験を行う予定であるため、前年度の研究費の一部を次年度使用額とすることになった。
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