研究実績の概要 |
国内の小児腎臓疾患を診療している8施設に協力依頼し収集した検体のうち、ナノ粒子追跡解析(NTA)に必要なサンプル量が十分確保できる20検体(健常児3例、小児CKD患者17例)でTim4蛋白質アフィニティー法による尿中EVの精製を行い、NTA解析を完了した。取得したデータを健常児と小児CKD患者で比較したところ、粒子数と粒子径には、統計的な有意差を認めなかったが、ピークサイズの密度は、小児CKD患者で有意に低下していた。さらに、粒子数と尿の希釈の指標となる尿中クレアチニン(uCr)は正の相関があり、両者は粒子径と負の相関があった(Takizawa K et al, iScience. 2022)。つまり尿濃度が尿中EVの物理的パラメーターに影響を与えていることが分かった。また、小児CKDの原因疾患毎の物理的パラメーターに関しても比較検討したところ、低形成腎や逆流性腎症と比較して、特にネフロン癆の検体において粒子数の減少と粒子サイズの増大が顕著であった。マイクロ流路粒子解析でもネフロン癆の患者においてzeta potentialが健常者と比較してプラスの電荷を帯びている傾向にあった。小児CKD患者、特にネフロン癆で物理学的パラメーターが変化するメカニズムの解明は今後の課題である。一方、本研究で解析した症例においては、プロテオームデータと物理的パラメーターとの関連性は認められなかった。しかし、原因疾患や物理的パラメーターによらず小児CKD患者において、尿中EV中のMUC1の発現量が低下していた。小児CKD早期発見に向けて、この結果を臨床実装するために尿中EVのMUC1等の分子発現量を簡便に測定するためのELISAプロトコールも確立した(Takizawa K et al, STAR Protoc. 2023)。現在、成人CKDへの応用も視野に入れて検討を進めている。
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