研究課題
本研究の目的は、炎症性腸疾患と自己免疫性肝炎という消化器分野における難病の病態形成において、ケモカインMIP1-γがどのような役割を担っているかを解析することであった。前年度に引き続き、炎症性腸疾患モデルは、DSS(デキストラン硫酸ナトリウム)の自由飲水による実験的大腸炎モデル(DSS腸炎)を使用し、自己免疫性肝炎モデルはConA(コンカナバリンA) の経静脈投与による急性肝炎モデル(ConA肝炎)を使用した。DSS腸炎において、前年度は、腸炎の程度に野生型マウスとMIP1-γ遺伝子欠損マウスの間で有意差は見られなかったと報告したが、実験の再現性を確認する中でより詳細な解析を行うと、MIP1-γ遺伝子欠損マウス群において腸炎が増悪している可能性が示された。体重減少や腸炎の症状スコア(DAIスコア、病理スコア)などの臨床的所見の増悪に加え、サイトカイン発現解析においても、種々の炎症性サイトカインの発現がMIP1-γ遺伝子欠損マウス群で高く、MIP1-γがDSS腸炎において何らかの制御を行っている可能性が示唆された。ConA肝炎においては、野生型マウスとMIP1-γ遺伝子欠損マウスの2群間で、肝逸脱酵素や炎症性サイトカインの発現では、現時点で明らかな表現型の差は見られていないが、生存率に関しては野生型マウスよりMIP1-γ遺伝子欠損マウスの方が高い傾向が見られた。しかし、conA肝炎という実験系が非常に急速な肝障害を起こし、個体差がかなり大きくなってしまうという問題点を抱えている点や、手技者の技量によって投与量にばらつきが出てしまうという懸念がある点から、今後conA肝炎に代わる肝炎モデルを検討する必要があると考えられた。そこで、今後はマウスの脂肪肝炎モデル等を用いた実験などを試みる予定である。
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