研究課題/領域番号 |
22K20879
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
村井 翔太 東京大学, ニューロインテリジェンス国際研究機構, 特任研究員 (40966107)
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研究期間 (年度) |
2022-08-31 – 2025-03-31
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キーワード | 自閉スペクトラム症 / 音声 / 脳機能画像 / 言語 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、自閉スペクトラム症における雑音下での音声の聞き取りづらさを生み出している情報処理メカニズムを解明することにある。雑音の中での音声の知覚には、聴覚皮質と言語情報処理に関わる脳領域(e.g., 上側頭皮質、外側前頭皮質)との相互作用が重要な役割を果たすと考えられている。一方で、自閉スペクトラム症に関する音声知覚の先行研究では、上側頭皮質や外側前頭皮質を中心とした機能的結合の非定型さが報告されている。これらの音声知覚の神経機構に関する観点から、自閉スペクトラム症による音声の聞き取りづらさは、音声自体の言語的複雑さの影響を受けることが示唆されるが、その関係性は明らかにされていない。本研究では、まず音声の言語的複雑さと音声知覚のための神経機構の振る舞いの関係性を明らかにする。さらにその関係性についての自閉スペクトラム症当事者と定型発達者の違いや、自閉スペクトラム症特異的な音声の聞き取りづらさとの関係について検討する。 2023年度は、音声の言語的複雑さが音声知覚処理に与える影響を検討するため、定型発達者を被験者として行動実験、聴力検査、質問紙による調査およびMRI実験を行った。 雑音下での音声知覚を評価する行動実験により、信号対雑音比の違いによる音声了解度の違いを、音声刺激の言語単位ごとに調べた。信号対雑音比の上昇に伴って音声が明瞭になり音声了解度は上昇するが、被験者によって低い信号対雑音比でも音声了解度が高い被験者や、このような信号対雑音比と音声了解度の関係が音声刺激の言語単位によって異なる被験者が観測された。 また、機能的MRI計測により、音声を聞き取る際に信号対雑音比の上昇に伴って線形に上昇する両側の上側頭回および上側頭皮質の賦活を確かめた。この傾向は先行研究と一致している。加えて、言語単位の違いが音声知覚処理に与える影響を脳機能ネットワークの振る舞いから検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は、定型発達者群を対象に、前年度に確立した行動実験、聴力検査、質問紙による調査およびMRI実験を計画通り行った。一方で、自閉スペクトラム症当事者群を対象とした実験は、被験者を集めることに難航したため十分な被験者数を集められなかった。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、自閉スペクトラム症当事者を対象にさらに行動実験を実施して、先に取得した定型発達者群のデータとの違いを調べる。また、定型発達者を対象とした行動実験から見えてきた聞き取りづらさの個人差と、質問紙から得られた個人の特性(日常生活の中での聞こえづらさや、自閉スペクトラム症指数)との関係を調べる。また、MRI実験に関しても同様に、自閉スペクトラム症当事者を対象にさらに実験の実施を続けて、脳機能データの定型発達者群との比較を行う。また、安静時機能的MRIデータから局所的な神経タイムスケールと脳内大域ネットワークの関係性を示す解析手法を確立しており、この手法を本研究のデータに対して適応する。さらに、MRI実験から同定された脳機能領域に対して、経頭蓋磁気刺激法を用いた実験を行い、音声の聴き取りづらさに関連する神経機構の因果的検証を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度中に自閉スペクトラム症当事者を対象とした行動実験およびMRI実験が十分に行えなかったため、次年度使用の必要性が生じた。 次年度に実施する実験の費用やその成果を発表する費用に使用する。
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