抗がん剤を含む多くの薬剤は肺胞および間質領域に障害をきたすことがあり、それらは薬剤性間質性肺炎と呼ばれる。肺癌の予後改善に大きく寄与している上皮成長因子受容体(epithelial growth factor receptor: EGFR)チロシンキナーゼ阻害薬は、一定の頻度で薬剤性間質性肺炎を発症し致死的な転機を取るため、薬剤性間質性肺炎の病態解明が求められている。 昨年我々はEGFRチロシンキナーゼ阻害薬の中で現在最も使用されているオシメルチニブを用いて薬剤性間質性肺炎モデルを作成した。ナフタレンをマウスに腹腔内投与し、細気管支上皮を一時的に脱落させ、オシメルチニブを14日間経口投与したところ、ナフタレン単剤群・オシメルチニブ単剤投与群ではみられない肺障害が誘導された。マウスより回収した気管支肺胞洗浄液を比較すると、ナフタレンとオシメルチニブを投与したマウスでリンパ球の増加を認めた。実臨床で経験するオシメルチニブによる薬剤性間質性肺炎患者の気管支肺胞洗浄液みられる所見に合致していた。 オシメルチニブによる薬剤性間質性肺炎患者から採取した気管支肺胞洗浄液をマスサイトメトリーを用いて解析したところ、他の間質性肺疾患では検出されないnaive CD4T細胞を認めた。そこでオシメルチニブ肺臓炎モデルマウスの肺を用いて、マウス肺のbulk RNAseqを行ったところ、naive CD4T細胞を遊走させるCCL21の発現がオシメルチニブとナフタレンを投与したマウスで上昇しており、CCL21は脱落後再生してきた細気管支上皮に多く発現していることを見出した。これらのヒト患者検体およびモデルマウスの結果から、オシメルチニブ肺臓炎の発症に障害された細気管支上皮によるnaive CD4T細胞の遊走が関与していることが示唆された。今後はその制御メカニズムを探索していく予定である。
|