糖尿病における高頻度な合併症である糖尿病性神経障害(DPN)は、病態が十分に解明されておらず、予防法・治療法の確立も進んでいない。本研究では、DPNの新たな病態を解明する上で、アミノ酸利用不均衡に基づく、異常スフィンゴ脂質1-deoxy sphingolipids (1-deoxySLs)の蓄積に注目した。スフィンゴ脂質はミエリン鞘を構成する主要な生体膜分子であるが、その構成分子であるアミノ酸L-serineの代わりにL-alanineが生成に使われると分解のできない1-deoxySLsが生成され蓄積し細胞を傷害する。糖尿病患者では血中L-serine減少とL-alanine増加さらには血中1-deoxySLsの増加が報告されており、アミノ酸濃度の変化が1-deoxySLsの蓄積を惹起している可能性が推察できる。しかしながら、DPNにおいて1-deoxySLsが病態に関与しているかは検討されていない。本研究では、DPNマウスモデルにおける1-deoxySLsの蓄積の有無を評価し、DPNの治療にL-serineの補充が有効であるかを検証することを目的とした。また組織・細胞培養により細胞レベルでの1-deoxySLsの傷害性を明らかにすることも目指した。まず一時感覚ニューロン細胞体の集合体である後根神経節DRGにおけるアミノ酸トランスポーターの発現状況を検証することを試みた。しかしながら、特異的抗体が得られずRNA sequensingによる解析に変更した。その結果、細胞膜に分布することが知られている各種アミノ酸トランスポーターの発現を確認した。また、小胞体膜状でスフィンゴ脂質の縮合に関わる重要な酵素SPTlc1が糖尿病モデルdb/dbマウスにおいて有意に減少していることが判明した。今後、解析を進めることで包括的代謝変化を解明できる見込みである。
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