膵がんは予後不良の悪性腫瘍であり、新たな治療法開発のためさらなる本態解明が必要である。膵がんの原因となる遺伝子変異は明らかになってきたものの、「どの細胞」を起点とし、「いかなるシステムの破綻」によりがんが発生するのか、すなわち膵がんの始まりは未だ詳細は不明である。 本研究は、正常膵臓組織の細胞多様性を明らかにし、さらに膵がんの起点となりうる発がん母地細胞を同定することで、生理的な膵臓発がん過程を明らかにすることを目的とした。具体的には、1細胞遺伝子発現解析法を用いたマウス正常膵臓発生過程における細胞多様性の検討、膵がん発生の場とされる膵管および腺房前駆細胞の推定、特異的マーカー同定を行った。 その結果、1細胞遺伝子発現解析により、マウス膵臓は内分泌細胞のほか、膵管細胞や腺房細胞、サテライト細胞といった多様な細胞によって構成されることがわかった。またCytoTRACE法を用いたデータ駆動型アプローチにより、マウス膵管や腺房を構成する細胞の前駆細胞候補を見出した。さらに、この前駆細胞候補のマーカー遺伝子の探索を行い、これまで報告のないいくつかの遺伝子を抽出した。候補となった一部のマーカー遺伝子は膵管に発現していることが報告されており、膵がんの発生母地の1つは膵管に存在する可能性が示唆された。一方で、研究代表者らはヒト膵がんの転移や再燃を司るtumor-initiating cellsマーカーとして、受容体チロシンキナーゼROR1を同定したが、正常マウス膵臓においてはその発現を確認できなかった。
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