糖尿病は膵β細胞の分泌するインスリンの絶対的あるいは相対的な作用不足によって発症すると考えられている。機能的β細胞の移植は糖尿病患者の理想的な治療法ではあるが、ドナー不足により安定した治療法として確立してないのが現状である。β細胞はほとんど増殖しないことから、β細胞の再生医療が世界中で試みられてきた。本研究に先立って我々はMYCLリプログラミングによる成熟膵島細胞の増幅に成功しているが、MYCLリプログラミングの機序を詳細に紐解くことで、より効率的かつ安全性の高い膵島細胞の増殖誘導方法の開発を目指している。
前年度では膵島発生過程に活性化する代謝経路に着目し、MYCLと協調することで膵島細胞に活発な増殖活性が付与されることを示した。一般に膵島にはα、β、δ、PP細胞の4種類の細胞が含まれるが、今回観察した膵島増殖がどの細胞種で優位に働くか検討した。当該研究室が独自に作製した膵島における各細胞種を追跡可能なマウスモデルを使用し、それぞれの細胞種でMYCLによる増殖誘導を行った。その結果、インスリンを分泌するβ細胞が特に優位に増殖活性が付与されていることが示された。
上記で明らかにしたβ細胞の効率的な増殖誘導方法をヒトに応用するため、ヒトiPS細胞由来β細胞様細胞を用いて増殖誘導を試みた。その結果、マウス同様ヒトにおいても活発な増殖誘導を行うことに成功した。今後はヒトβ細胞の継続的な増殖誘導や増殖誘導後の機能性評価、ドナー由来β細胞の増殖誘導を行うことで、糖尿病患者への移植治療に向けたβ細胞の安定供給を目指す。
|