自己抗原に似ている標的抗原に対する抗体産出は自己免疫寛容によって抑制されやすい。インフルエンザウィルスの表面抗原HAタンパク質(HA)は複数種間で保存されたStem領域がある。このStem領域を認識する多くの抗インフルエンザウィルス広域中和抗体は自己反応性が報告されており、万能インフルエンザウィルスワクチン開発の課題となっている。抗原特異性を担保しつつ、自己反応性が低減した抗体産出を誘導できるワクチン開発が本研究の目的である。 抗原である環状ペプチドとキャリアタンパク質の化学的なコンジュゲーションの条件検討を行い、信頼性及び再現性の高い免疫原を調整した。具体的には、新型コロナウィルスのスパイクタンパク質をキャリアタンパク質とし、その表面に13個の環状ペプチドを結合させた人工抗原を作成した。この人工抗原とアジュバントであるAddavaxを免疫原とした。キャリアタンパク質特異的なメモリーT細胞を誘導するために、事前にスパイクタンパク質を皮内投与し、その後人工抗原を複数回皮内投与で免疫した。スパイクタンパク質を事前に投与したマウスの血清においてのみ、環状ペプチド特異的な抗体価とHAのStem領域に対する抗体価の上昇を確認できた。また、未免疫マウス血清に比べ、インフルエンザウィルスに対して弱いながらも中和活性を示した。 自己反応性を抑えることを目的とし、可能な限り最小単位の抗原で抗原特異的な抗体の産出を誘導することが出来た。
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