糖尿病患者は感染症に罹患すると重症化することが多く死亡率が高いが、重症化予防のための治療法は確立していない。転帰不良の機序として、免疫機能低下が報告されているが、感染急性期の過剰炎症による臓器障害もその一因であることが示唆されている。 申請者は、糖尿病モデルマウスを用いて、①肺組織において血管内皮細胞を保護する役割を持つ血管内皮グリコカリックスが菲薄化していること、② 全身の炎症を惹起するリポ多糖(Lipopolysaccharide、LPS)を投与すると、野生型マウスと比較して生存率が低下し、肺傷害が高度で、炎症性サイトカインである血清IL-1βの高値が遷延することを明らかにした。即ち、糖尿病モデルマウスにおいては、感染急性期の炎症が過剰となって臓器障害を引き起こし、生存率が低下する可能性が示唆されるが、IL-1βの産生細胞や産生機序については明らかにできていない。 本研究では、感染症罹患時に血管内皮細胞が多くpyroptosisを起こし、IL-1βなどを多量に放出して重症化の一因になるのではないかと仮説を立て、IL-1βの産生細胞を同定するため、糖尿病モデルマウスおよび野生型マウスに対し、LPSを用いて炎症を惹起し、抗IL-1β抗体を用いて免疫組織染色した。肺と心臓ではほとんどIL-1β陽性細胞が確認できなかったが、腎臓および肝臓おいて陽性細胞の集積が認められた。続いて血管内皮細胞とpyroptosisの関係をみるため、血管内皮細胞のマーカーであるCD31とpyroptosisに関連するCaspase1およびNLRP3を用いて蛍光二重染色法を施行した。肺、腎臓においてCaspase1およびNLRP3が血管内皮細胞と共局在を認めたが、心臓、肝臓では明らかでなかった。以上よりpyroptosisは血管内皮細胞だけでなく、一部の臓器においても惹起される可能性が示唆された。
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