本邦の肝・膵移植医療における脳死臓器提供者数は年間約50例と諸外国に比して、極めて少なく、絶対的なドナー不足が現在も問題となっており、それに代わる再生医療や組織移植の開発に期待が寄せられている。これまで我々は細胞外マトリックスによる細胞積層技術(layer-by-layer法: LbL法)を用いて、ヒト凍結初代肝細胞からなる機能的血管化三次元肝組織やMIN6 β細胞を用いた三次元膵組織を構築し、既存の二次元組織と比較し、機能的・形態的にも有用であることをマウス生体内においても確認し、報告してきた。しかし、その一方で、臨床応用に向けては、1)安全な細胞ソースの確保 2)生体内での至適移植部位の同定 3)三次元肝組織における胆管組織構築 4)長期生着に向けた膵組織グラフトの血管化が新たな課題としてあげられ、これらの克服に向けた、更なる研究開発を行い、ドナー不足にとらわれない次世代の移植・再生医療の実現を目指すことを目的としている。今回の研究ではヒPSC由来β細胞を使用し、LbL法により、三次元化した細胞集塊の内部に網細血管を組み込むことで、組織のviabilityの向上を得ることに成功した。さらにインスリン分泌能は非血管化組織と比較して有意に上昇していた。さらに、in vivoにおいて血管化スフェロイドと非血管化組織を皮下移植し、血糖の推移を見ると、血管化スフェロイド移植群で有意に随時血糖値及びグルコース負荷試験での有意な血糖値の低下を認めた。本研究は、1型糖尿病に対する再生医療の確立に有用である可能性が示唆された。
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