本研究では、腫瘍溶解ウイルスであるOBP-702の治療効果に関連するバイオマーカーの同定を行い、それらを用いた治療効果予測システムの構築を目指した。令和4年度は、34種の消化器癌および13種の非消化器癌の計47種類の細胞株を用いて、OBP-702にOBP-301およびAdp53を含んだ各ウイルスに対する感受性をXTT アッセイで解析し、IC50値を算出することで基盤となるデータベースの作成を行った。OBP-702は全ての細胞株で他のウイルスより優れた抗腫瘍効果を示し、その抗腫瘍効果は他の 2つのウイルスと相関を示した。 さらにOBP-702の抗腫瘍メカニズムを「ウイルス感染」、「ウイルス複製」、「p53」の要素に分け検討し、抗腫瘍効果への関連が予測される因子について細胞株 ごとに評価を行い、IC50値との相関を評価することで、バイオマーカーとなりうる因子の検索を行った。それぞれ「Coxsackie Adenovirus Receptor」、「Ki67」、 「p53遺伝子変異」がIC50値との相関を認め、OBP-702の抗腫瘍効果に関連する因子であることが示唆された。令和5年度はこの3つの因子を用いた効果予測システムとしてスコアリングシステムを作成し、実際の抗腫瘍効果との相関性を評価することで、システムの整合性を検討した。当初は臨床サンプルを用いたPDXモデルを作成してin vivoでの治療効果判定を行う予定であったが、系の確立が困難であり、細胞株をmixし、『未知の細胞』と見立てることでin vitroでの効果判定を行った。最終的にスコアと治療効果は|r|=0.58と相関を示し、今回構築したスコアリングシステムがOBP-702の抗腫瘍効果を予測するシステムになりうる可能性が示唆された。
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