移植医療における臓器不足は深刻であり、脳死下だけでなく心停止ドナーからの提供も拡大されることが検討されている。しかし、虚血再灌流障害IRIによる急性臓器不全とともに、免疫学的因子の活性化による急性および慢性の拒絶反応の増加が懸念されている。臓器固有と周囲の環境因子が複雑に絡み合う移植医療において、臓器由来の免疫調整因子である損傷関連分子パターンDAMPや第三次リンパ組織TLSに着目し、臓器内での免疫調整と、障害/拒絶または修復/制御の関連性を解明すること、さらに臓器内免疫制御に基づく新たな治療法の開発は重要である。 令和5年度は、強い血管内皮活性化・障害や炎症/凝固反応が起こるIRIモデルを用いて、再灌流直後の障害進展と炎症性DAMPの経時評価を行い、また炎症性DAMP阻害による治療効果を評価する検討を行った。特に障害進展性のDAMPであるHMGB1によるIRI進展作用を追加検討した結果、HMGB1がIRI進展に大きく作用することが明らかとなった。しかし、IRIモデルでは肺内でのTLS形成は明確ではなかった。 次に、肺移植検体を用いて障害進展DAMPがTLS形成に及ぼす影響を評価した。MHC適合/不適合間の移植や、ドナー虚血の有無(強い温虚血ドナーからの移植や冷保存後の移植など)を含む様々な実験モデルでの評価を行ったが、TLS形成については比較評価できるだけのデータが得られなかった。この原因として、我々のモデルでは急性期のDAMPの程度が様々であるものの、移植肺は高度の拒絶反応により1-2ヶ月で拒絶されるか、拒絶なく長期生着が得られるため、適切な慢性肺機能不全を呈するモデルの確立に至っていないことが考えられる。従って、臨床に準じた長期免疫抑制剤使用を含めた新しい実験系によって、移植肺不全が遷延するモデルの確立を図ることが、移植肺内のTLS形成に関わる因子の同定に必要である。
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