研究課題/領域番号 |
22K20957
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
室井 慎一 富山大学, 和漢医薬学総合研究所, 研究員 (70965714)
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研究期間 (年度) |
2022-08-31 – 2024-03-31
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キーワード | 妊娠高血圧症候群 / アクアポリン / 和漢薬 / レニンアンジオテンシン系 / サイトカイン |
研究実績の概要 |
妊娠高血圧症候群 (HDP) は周産期に生じる疾患の中で最も頻度が高いにも関わらず,効果的な治療が存在しない.申請者は,HDPモデルマウスであるPAHマウスの妊娠19日目の胎盤をサンプルとしたトランスクリプトーム解析の結果から,水チャネルであるAQP1の遺伝子発現がPAHマウス胎盤で減少していることを見出している.本研究では,AQP1の発現減少を実際に確認すること,その減少の意義およびその原因の解明,さらにはその減少を抑制可能な和漢薬の探索を行うことを目的とする. 本年度は,まず正常妊娠マウスおよびPAHマウスの発症前,発症後および出産直前のそれぞれ妊娠13,16および19日目の胎盤サンプルを用いて,AQP1のmRNA発現およびタンパク質量を解析した.妊娠16日目および19日目の胎盤においてAQP1のmRNA発現およびタンパク質量は著明に減少していた.この結果から,トランスクリプトーム解析の結果が実際に検証され,その減少は妊娠高血圧症候群の病態進行に伴って生じていることが示唆された. 正常妊娠マウスおよびPAHマウスの妊娠19日目の胎盤をサンプルとしたトランスクリプトーム解析の結果からは,AQP1の発現減少に関わる炎症などに関する遺伝子群は抽出されなかった.しかしながら,qPCRにて炎症性サイトカインのmRNA発現を解析すると,わずかではあるがPAHマウス胎盤において上昇傾向にあった. さらに,AQP1発現減少を改善できるような和漢薬の探索として,マウスアンジオテンシンAT1受容体安定発現HEK293細胞に和漢薬を10 ug/mlで24時間前処理後にアンジオテンシンIIを15分間処理し,細胞溶解液中のERKのリン酸化レベルを評価することでアンジオテンシンIIによる受容体活性を評価した.その結果いくつかの和漢薬に抑制効果が認められた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画段階では,今年度は妊娠各時期の胎盤のAQP1発現の検証と,PAHマウスで上昇するアンジオテンシンIIによる受容体の活性化を抑制可能な和漢薬のスクリーニングを中心に実施する予定であったが,これはおおむね達成できたと考えられる.特に,胎盤組織のAQP1のmRNAレベルおよびタンパク量の減少は顕著であった.この減少はAQP1によって細胞にもたらされる細胞遊走能,細胞増殖能,炎症応答調節能などの機能への影響が予測され,今後の展開が期待される.胎盤サンプルを用いた臨床研究などでもAQP類の減少が多く報告されており,PAHマウスの胎盤においても実際の妊娠高血圧症候群と類似した表現型を呈していることが確認された.和漢薬のスクリーニングについては,複数種類の生薬エキスにアンジオテンシンIIによる受容体活性化を抑制する効果が確認され,妊娠高血圧症候群の治療に和漢薬が有効である可能性が示唆された.
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今後の研究の推進方策 |
これまでの成績から,妊娠高血圧症候群モデルマウスであるPAHマウスの胎盤において病態の進行に伴ってAQP1が減少することが確認された.AQP1を始めとしたAQP類は細胞の増殖,遊走,生存や炎症応答に関与することが報告されているため,実際に胎盤の特にAQP1発現が主である内皮細胞のAQP1の減少が細胞機能にどのような影響を与えるのかを評価する.具体的には,AQP1をノックダウンおよびアンジオテンシンII処理によってAQP1量を減少させたHUVEC細胞およびマウス初代血管内皮細胞の細胞増殖能,細胞遊走能,サイトカイン処理によるケモカイン発現などを評価することで,胎盤AQP1発現減少が,胎盤組織における組織破壊に対する組織修復の遅延および刺激に対する脆弱性の上昇などを引き起こす可能性を検証する. 胎盤をサンプルとしたトランスクリプトーム解析については,出産直前の妊娠19日目のデータにとどまっているため,AQP1の発現が減少する前である13日目および減少が始まる16日目のサンプルについても解析を行うことにより また,胎盤AQP1発現減少を抑制できるような和漢薬について,生薬レベルで効果が認められたものに関して,引き続き培養細胞を用いながらその作用プロファイルを検討しながら,主要成分のなかで入手可能なものから順次PAHマウスに投与し効果を検証している予定である.
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