食生活の欧米化や高齢化などの影響を受けて前立腺癌の罹患率は増加傾向である。前立腺癌は生活習慣に大きく関係しており、たとえば高脂肪食は前立腺癌のリスク因子である。当研究室ではこれまで、前立腺癌モデルマウスを用いて高脂肪食が前立腺癌の進展に与える影響について検証してきた。一方、適度な運動は多くの癌において死亡率および癌特異的死亡率を低下させることが知られているが、そのメカニズムは不明である。 癌細胞は高いエネルギー回転と急速な細胞増殖を支えるために細胞内代謝を変化させることが知られている。これは代謝リプログラミングと総称され、癌細胞の生存や分裂に必要なエネルギー産生やタンパク質・核酸の供給に必要である。運動は、全身および細胞内代謝に顕著な変化を誘発するエネルギー消費型の活動であり、運動により腫瘍内代謝が変化する可能性は十分に考えられる。そこで、本研究では、運動が前立腺癌の進展に対して与える影響について前立腺癌モデルマウスを用いて検証し、特に運動による代謝物の変化に着目した。 まず、前立腺癌モデルマウスを通常群および運動群に分けて22週齢まで飼育した。その結果、運動群では前立腺重量が25%縮小した。(p=0.008)また、前立腺癌組織中のKi-67陽性細胞率は運動により有意に低下していた。(通常群:16.5%、運動群:6.7%、p=0.026)そして、運動により前立腺癌組織中の代謝物のプロファイルが大きく変化していることを見出した。 今後は変化した代謝物が、前立腺癌の進展に及ぼす影響について検証を行う。また、当該代謝物のバイオマーカーとしての利用や治療ターゲットとしての妥当性についても検証していく。
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