CRISPR/sgRNAライブラリーを用いたゲノムワイドスクリーニング法は、細胞の増殖や生存を対象にした研究には有効であるが、それ以外の生化学反応を標的とする場合には適用が困難である。これは、増殖とは関わらない生化学現象を対象とするスクリーニングでは、標的の現象を正確に捕捉するための実験系の構築とsgRNAの濃縮方法の開発が必要だからである。この問題に対処するため、申請者の所属研究室では細胞の生化学反応を捕捉する新しいスクリーニング手法、「リバイバルスクリーニング法」を開発した。この方法では、フローサイトメトリーを使用して選別された細胞からライブラリーを再構築することで、特定の生化学反応に関与する因子を同定できる。しかしながら、本手法をマウス個体で実施することは未だできていなかった。そこで、本研究では、このスクリーニング手法をマウスの精巣に適用し、精子形成の完成度を決定する分子機構を網羅的に調べることを試みた。具体的には、①雄生殖細胞特異的なsgRNAライブラリーの導入方法、②精子の生化学的な機能に基づいた精子形成能の評価法、③精子に組み込まれたsgRNAを読み出しライブラリーを再構成する方法を樹立し、精巣を標的としたin vivoスクリーニング法を樹立した。このin vivoスクリーニングにより、レーバー先天性黒内症の原因遺伝子として知られるRetinal Degeneration 3 (RD3)を同定し、この遺伝子が精巣の円形精子で高発現していることを確認した。その後のプロテオミクス解析および、申請者が開発した細胞種特異的なシグナル経路同定ツール「Hub-Explorer」を用いて、RD3がミトコンドリアと相互作用しており、特に繊毛形成誘導時に活性酸素の蓄積を緩和することで酸化ストレスによる細胞損傷を軽減する機能を持つことが示された。
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